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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第五章

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10 込み上げてきた涙。

 セロと会話したり、黙ったりしながら勉強していると、あっという間に二十分が経ち、休憩時間になった。


 ヨウは、来ない。


(来ない、か……)


 アズラク語の勉強道具を片付けながら、心の中でポツリとつぶやいて、うつむき、少し暗い面持ちになる佐知子。


「……っ――」


 そんな様子の佐知子に、セロが声をかけようとした時だった、コンコンと、少し大きく早いノックの音とともに、ガチャと乱暴に扉が開かれた。


「悪い! 少し遅れた!」


 そして、少しあわてた様子のヨウが部屋へと入ってきた。


「!」


 突然に、もう来ないと思っていた、会いたいと思っていた人が現れて、佐知子は言葉をなくし、瞳を見開き、その姿を見つめる。


「……なんだー、ヨウ来たんだー。今日、来られないのかと思ったよ」


 セロも少し驚いて、一拍置いた後、いつも通りの調子で、話しかける。


「あ? ああ、まぁ、ちょっと大変だったが、なんとかな……当分、来られなくなりそうだったから……」


 ヨウは扉を閉め、ふうっと息をつく。


「あー、やっぱりか。忙しくなってきた?」

「ああ……まぁな」


 ヨウは、ティーセットの携帯器をテーブルの上へとのせながら、セロと会話をする。


「…………」


 佐知子はヨウを見る。


 ヨウは、いつもと変わらないヨウだった。

 黒髪で、濃い緑の瞳。褐色肌で、背が高くて、鍛えられた逞しい体。

 泣きそうだった。

 ヨウの姿を見ただけで、そこでしゃべって、動いているのを見ただけで、涙がこみあげてきた。


「っ……」


 佐知子は泣きそうになるのをうつむいて、ぐっとこらえる。


「…………」


 そんな佐知子を見て、セロは瞳を伏せ、少しほほえみながら立ち上がる。


「さってと。それじゃあ、俺はちょっと用事があるから、でかけてくるよ。少ししたら戻ってくるからね」

「あ? ああ……」


 ヨウは少しいぶかしげに返事をする。


「じゃあね~」


 セロはひらひらと手をふり行ってしまった。


「なんだろうな……あいつ……」


 パタンと、扉が閉まると、ヨウは佐知子に顔を向けながら話しかける。


「!」


 しかし、佐知子を見て、ぎょっとする。体を硬直させ、思わず半歩後ろに下がった。


「っ……うっ……ひっく……ひっく……」


 佐知子が泣いていたからである。

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