4 知らない十年。
「はいはい、二人が仲がいいのはわかったから、俺がサッちゃんに日本語教えてもらう時間がなくなるからそろそろお開きね」
すると、笑いがおさまったセロが手を叩く。
「おっと、俺も長居しすぎたな。行かなきゃ。すみません、セロ長官。ごめんね、サチコちゃん」
「いえ」
謝るアフマドに好意的に返事をする佐知子。
「じゃあ……俺も行くか」
「お、一緒に行くか?」
「ああ……」
ヨウもティーセットを片付けながら一緒に出ていこうとする。
「あ、ごめん。あたしも片付けるね」
佐知子が立ち上がると、大丈夫だ。と、手早くティーセットを携帯器の中にしまい、ヨウはアフマドと部屋を出て行く。
「またねー、ヨウ」
「またねー」
セロと佐知子は手をふって、部屋を出て行く二人を見送る。
「ああ……」
ヨウが出て行ったあと、アフマドはふと立ち止まり、振り返った。そして佐知子をしばらく見つめると、
「……サチコちゃん……君と会えてよかったよ……」
どこか嬉しそうに、そして悲しそうに、ふっとほほえみそういった。
「え……」
佐知子は戸惑う。
「おい……何話してんだ」
ヨウが戻ってきた。
「じゃ、サチコちゃん、またね~」
アフマドは何事もなかったかのように手を振ると、なんでもない、なんでもない。と、ヨウにいいながら行ってしまった。
二人は去っていった。
最後のアフマドの言葉は疑問だが……サチコは安心した。
出会いからの知らない十年。ヨウにもちゃんといろいろな人との出会いがあり、楽しいこともいいこともきっと、あったのだと。
アフマドという、いい友達もいたのだと。




