10 この世界で。
(やっと……終わった……)
三時の鐘が鳴り、時計の針が三時を少し過ぎた頃、佐知子は腕にしがみつくセロを少し強引に、ヨウと書記官さんに怒られますから! と振り解き、イスを立ちセロの部屋を後にした。
そのままフラフラと使用人小屋に戻ると、ボスンと布団に身を投げた。
セロの質問攻めにはほとほと困った。わからないことだらけな上に、質問が細かい。質問が多い。質問が終わらない。挙句の果てには『サッちゃんは、何も知らないね』と、言われてしまった。
(どうせバカな高校生ですよ!! ていうか、身近な生活用品の原料とか製造工程とか知ってるやつなんてほとんどいないよ!!)
少し悔しくて、佐知子はボスっと枕に拳を打ち下ろす。
「はぁ……」
溜息を吐いて仰向けになる。天井は薄暗く冷たいレンガだった。
「…………」
だが、セロのおかげで色々知れたことを思い出す。
この世界のこと、国のこと、この村のこと。
明日から言葉も教えてもらう。セロ様様だ。
(私……本当にここで生きていくんだなぁ……)
佐知子は薄暗い天井を見つめたまま、そんなことを思う。
豊かだけれど、平凡で平穏な日常を捨て、なかば無理矢理だがこの不便だがわくわくと刺激あふれる世界へとやってきた。
「……がんばろう」
佐知子は小さな声でつぶやき、少し嬉しそうに、静かにほほえんだのだった。




