9 天才、セロ様。
「で? 後は何が知りたい?」
「あ! えっと……後は……」
佐知子は聞きたいことを考える。何かなかったか……そしてあることを思い出した。
「あの、国事部とかって……なんですか? あと、ヨウのしてる仕事とか、長官とか副長官とか……皆さんの立場を知りたいです」
「ああ、そんなことか~」
セロは軽く笑いながら地図を丸め、説明する。
「この村は一応、独立した村なんだ。どこにも属さない。だから一応、政府がある。共同代表はハーシムさんと黄さん。で、四つの部署があって、国事部、軍事部、医学部、科学技術部があるんだけど、それぞれ長官、副長官、その下に書記官が沢山いるわけ。で、国事部の長官はハーシムさん。軍事部の長官が黄さん、副長官がヨウ。医学部の長官がカーシャさん、副長官がトトくん。で、科学技術部の長官がボクってわけ。ちなみにボクは、こう見えても天才科学者だからね!」
ふん! と、息を吐きながら丸めた地図をポンと片手に打ち当て、得意げにセロは胸を張った。
「え……そうなんですか……?」
きょとんとしてしまう佐知子。
「そうだよ~! こう見えてもフラーウム王国の大学十歳で卒業したんだから~!」
「は……?」
「ね? 天才でしょ?」
セロはにっこり笑う。
「は!? 十歳!?」
佐知子は叫んだ。
「そうだよ~」
セロは自慢げに、にやにやとしていた。
「十歳で大学卒業したんですか!?」
「うん!」
「は~……」
(だからちょっとアレなのか……)
佐知子は最後の言葉は心の中に留めて置いた。
「そんな感じ。これで終わり?」
「そう……ですね、大体、分かりました……あとは、ここの言葉……あ、ちなみにこの言葉って何語なんですか?」
佐知子は書記官に渡された二枚のアラビア文字に似た文字を指す。
「これはアズラク語。ここはアズラク帝国が近いからアズラク語を使ってるよ。ちなみにさっきの地図の言葉はフラーウム語ね。アズラク帝国はアズラク語、エウペ王国はラトゥム語、ホン国はホン語、フラーウム王国はフラーウム語を使ってるよ。今度それぞれ書いてあげるよ」
その言葉に佐知子は疑問を覚える。まさかと思い、恐る恐る聞いた。
「……セロさん……全部書けるんです……か?」
セロは、にしっと人の悪い笑みをした。
「もちろん! 天才だよ? 四ヵ国語といくつかの少数民族語をマスターしてるよ!」
そう言い終わると腰に手を置き、あっはっは! と自慢げに笑った。
(ほんとに天才だった……)
ようやくセロが天才だという事実を佐知子は痛感して受け入れた。
「じゃあ、あとはアズラク語の勉強だけかな……」
イスにギシっと音をたてながらセロは座ると、テーブルに両肘をつき、両手を組み、その上に顎を乗せながら、佐知子をじっと見つめた。
「そ、そうですね……でも、それは毎日、少しずつでかまわないんで……」
「だよね……じゃあ……」
セロはにっこりと笑った。
黙っていれば王子様のようなセロに真正面から微笑まれると、赤面して逃げ出したくなるものがある……と、佐知子は少し頬を赤くする。
「サッちゃんの国のことを教えてもらおうかなぁ~~!!」
しかしセロは両手を上げながら、子供のような笑顔でほほえみそう叫んだ。
(これさえなければなぁ……)
そう思いながら佐知子は苦笑いをして、これから来るであろう、質問攻めに今からげんなりするのであった。




