3 使用人小屋の人間関係。
使用人小屋に戻ると、ライラの姿はなかった。
朝番と呼ばれる、役人や軍人達の朝ご飯を作る使用人の仕事に行ってしまったようで、使用人小屋にいるのは、非番か昼番だけの人達で、皆、のんびりと過ごしていた。
佐知子は開け放たれた扉に、目隠しにされた布をめくり、ライラがいないことを知ると、心細く、入りづらい気持ちになりながらも、ぎゅっと体に力を入れ、中に入り、革のサンダルを脱ぎ、自分のスペースへと向かった。
「あ、あんた!」
すると、部屋の奥の方から声をかけられ思わず肩を揺らす。
「セロ長官に連れてかれた子だろ? ライラから伝言。タオル置いとくからって」
指差された布団の上を見ると、レンガの上に置いたままだったタオルが置かれていた。
「あ、ありがとうございます」
佐知子はお辞儀をして、お礼を言う。
「あんた、大丈夫だった~? あの変人にすごい剣幕で連れてかれて」
その言葉に、小屋に残っていた他の使用人の女性たちが笑う。
「あ……まぁ、なんとか……」
(変人……)
佐知子は心の中でつぶやく。やはり他の人達にもそう思われているのかと。
「あの人、あれがなきゃあねぇ。顔はいいし、頭もいいし、身分もいいし、お金持ちで最高なんだけど」
ほんと、ほんと。と、周りの女性たちが言う。
「あ、ていうか、あんたが連れてかれてしばらくした後、ヨウ長官が、あんたいるかー? って来たよ? セロ長官が連れてったって言ったら急いで行っちゃったけど……そういえば、昨日の夜も、あの二人があんたんとこ来たけど……何、何!? あんた長官二人手玉にとって何者!?」
小屋の中がざわざわとする。この手の話はどこの世界の女性でも好きなのだなぁ。と痛感した。
「あ、いや、違うんです。あの……えっと、私、ヨウ……長官の、昔の恩人で……それでこの村に来たから、ヨウ長官いろいろ面倒見てくれて……で、ちょっと珍しい国……から来たので、持ってる物が珍しくて、セロ……長官が、すごい興味持っちゃって……さっきも、持ち物の事とか色々聞かれて……」
しどろもどろに、佐知子は立ったまま小屋の女性たちに弁解する。
「ふーん……でも、ヨウ長官はそんな感じじゃないよねー!」
しかし、盛りあがる女性たち。
「セロ長官はないけど、ヨウ長官ならいいよねー。ちょっと無愛想で無口だけど、浮気しなさそうだし」
「えー、ならあたしトト副長官もありだと思う」
「えぇ!? あの人この間、草と話してたよ?」
「草!!」
女性たちが一気に大きく笑う。何だかよくわからないが、話の矛先が自分から変わってくれたようで、佐知子は、ほっとして、静かに座った。
女性たちは楽しそうに会話をしている。ここの人たちの人間関係は良好なようだ佐知子は少しほっとした。もっとギスギスしていたらやはり居心地が悪いし、生活しづらい。
佐知子は安堵しながら、皆が会話する光景を、ぼうっと見つめていたのだった。




