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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第四章

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2-2 怒っているヨウ。

「うわ……ヨウが怒ってる……めずらしー……」


 怒らせた当の本人は珍しいものを見る目で迫り来る人物を見ている。



 確かに、今まで口数少なく、静かにしゃべり、表情もあまり変えなかった穏やかなヨウが、大声を出し、眉間に皺を寄せている。佐知子も驚いてヨウを凝視してしまう。



「珍しいじゃない! サチコ朝飯もまだだろ! ったく! これだから天才と何とかは紙一重って言うんだ! いいか! サチコに話を聞くのはいいが、ちゃんとサチコの空いた時間にしろ! わかったな!」


 ヨウは佐知子の隣に来ると、バンッ! とセロの目の前に手を叩きつけた。


「……あ~、はいはい。わかりました。わかりましたよ」


 一気にやる気をなくしたように、大きく息を吐き出すと、後頭部で手を組み、イスの背もたれに寄りかかりながら、セロは諦めたように言った。


「ヨウが怒った時はマジギレだからねー、素直に従いますよー……これだから普段、大人しい奴がキレると……」

「何だ」

「なんでもない、なんでもなーい!」

「…………」


 イスによりかかるセロを、腕組みをしながら見下ろし、睨み付けているヨウを、呆然としながら佐知子は見つめる。


 いつものヨウとは……といっても昨日、一日のヨウしか知らないのだが、昨日とは違うヨウにあせってしまう。


 ヨウはセロの言葉に納得がいったのか、徐々にいつもの静かなヨウに戻っていった。


「サチコ、悪かったな……使用人小屋に行ったら、セロに連れていかれたと聞いたから……慌てて来たんだ……朝飯もまだだろ。戻ってゆっくりするといい。セロとのことは……そうだな、こいつも仕事があるから……ちゃんと時間を決めないと仕事しなくなるからな……昼十二時から三時までが勉強時間ってことでどうだ?」

「あ、う、うん!」


(確か九時から三時まで暑いからみんな仕事休みなんだよね、その間にできるならちょうどいいや)


 佐知子がそう思っていると、


「えー! 一番、暑い時じゃん! しかも三時間だけ!?」


 セロがイスから跳ね起きた。


「……それ以外の時間は仕事があるだろう」


「仕事なんか後回しでいいよー!」


 セロはヤダヤダと、机を叩き駄々をこねる。


「……よくない。書記官がまた泣くぞ」

「泣かせとけ!」

「はぁ……」


 ヨウは小さなため息をついた。そんな様子を見ていた佐知子つい笑ってしまう。なんだかんだこの二人は仲がいいんだなと再確認した。


「……何、笑ってるんだ?」


 二人が不思議そうな顔で見る。


「あ、いや……なんでも……」


 するとタイミングよくなのか、悪くなのか、佐知子のお腹がなった。


(わー!)


「ご、ごめ!」


 慌てて佐知子はお腹を押さえて謝る。


「朝飯、食いに行くか」


 ヨウが、ふっと軽く笑った。


「ほら、お前も行くぞ。どうせ、食べてないし、寝てないんだろ」

「えー、あー……うん、そうだね……」


 ヨウの言葉にぼんやりとしながら、頭をかき、答えるセロ。


「あ~……やっぱり、寝てないんですか」

(って、まぁ、この顔見れば一目瞭然か……昨日の夜も寝ないっていってたし)


 いつの間にか、先程までのやる気に満ちた、キラキラ輝いた瞳はどこへやら、眠そうで覇気のない、うとうととしたセロは舟を漕ぎながら答える。


「はぁ……ほら、とりあえず、飯食ってから寝ろ」


 ヨウは座っているセロの方へ行き、うとうととしてふらついているセロに肩を貸し、半ば担ぎながら歩き出した。


「俺たちは食堂へ行くけど……多分、サチコは使用人小屋に朝飯があると思う。あと……いろいろ途中だっただろうから、片付けたりしてこい……またな……」


 ヨウはずるずるとセロを引きずって部屋を出て行った。


「…………」


 研究室とやらに残された佐知子は、とりあえず研究室らしく、日当たりの悪い、薄暗い部屋をぐるりと見たあと、ふっと息をつき部屋を出て、パタンと扉を閉め、身支度の途中だった使用人小屋へと戻ったのだった。

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