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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第四章

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1 天才となんとかは紙一重。

「わっ!」


 ガラン、ガラン!! っと、重低音の中にも、高さの混じった物凄い轟音がして、佐知子は飛び起きた。


「あー……おはよう。帰ってたんだ……」

「え……あ……おはよう……」


 佐知子は隣で眠たそうに瞼をこすっている、黒髪に褐色肌の、青い瞳の少女ライラと、見慣れないレンガの大部屋を見て、寝ぼけた頭で自分が昨日から異世界で生活し始めた事を思い出した。


(そっか……そうだった……)


 上半身を起こしたまま、まだ夜明けの薄暗い部屋の中でぼうっとする。


「鐘、すごい音だね」


 やっと鳴りやんだ轟音の鐘の音の事を、もう隣でテキパキと布団を畳んでいるライラに苦笑いしながら話す。


「ここ学校近いからねー。まぁ、すぐになれるよ。あ、あたし、今日、朝と夜番だからいないからね」


 一人でがんばんなよ。と、ライラは着替えを始めた。


「……うん」


 寝起きからテキパキと動き、支度をするライラに、生きてきた環境の違いを見せつけられている気がした。

 佐知子は、よしっ! と、気合を入れると立ちあがり、自分も布団を畳む。



「サチ、顔洗う場所わかる? 今から行くけど一緒に行く?」


 服を外着用のカンラに着替えていると、支度を終えたライラが声をかけてくれた。


「あ、行く! ありがとう!」


 作業着に着替えたライラの後を追い、使用人小屋を出る佐知子。


 洗顔などをする水場は使用人小屋のすぐそばの隅にあった。

 水道のように蛇口で出てくるものとは違い、レンガの細い上水路からずっと水が流れ続けているものだった。それが陶器のタイルで出来た、広い水受けに流れ込み、それが溢れまたレンガの下水道へ流れていく仕組みだった。


「汚れた水は地面に捨ててね。水受けの中に入れちゃだめだよ。あ、ここの水は飲めないからね」

「うん、わかった」


 ライラは水受けから水をすくい、顔をバシャバシャと洗う。佐知子もタオルを側のレンガの上に置き、顔を洗った。水は冷たく気持ちいい。一気に眠気が覚めるようだった。


「あ、バラのオイル? いいなー! ちょっとちょうだい!」

「うん、いいよ」


 昨日、アイシャとの買い物の時に買った、化粧水や乳液代わりのバラのオイルを顔に塗っていると、ライラが飛びついてきた。


「これ人気だよねー。あー、いい香り」


 肌に塗り終わると、両手で鼻を包み、香りを楽しむライラ。


「でもこれ高いからなかなか買えないんだー。あたしは違うオイル使ってるー」

「あ……そうなんだ……」


 高い物を買ってしまっていたのか……と、佐知子はヨウのお金を無駄使いしてしまっていたことに罪悪感を抱く。


 この世界の貨幣の価値や、物価を早く知らないといけないな……と、佐知子が綺麗な曲線を描いた、可愛いオイルの瓶を握りながらそう思っていると、


「あ!! いた!!」


 背後で男性の怒りのこもった大声が聞こえた。

 佐知子は反射的に丸めていた背をびくつかせて少し起こす。しかし、何事かと振り向く間もなく、肩をガッと掴まれた。


「サッちゃん! 夜が明けたらすぐに来てって言ったよね! 言ったよね!? もう夜、明けてるんだけど!!」


 肩を掴まれ、無理やり振り向かされた先には、せっかくの美形が台無しな……いや、例え目の下に濃いクマが出来ていようと、疲労と苛立ちで眉間に深い皺が寄って目が据わっていようと、美しい顔はどうなっても美しいんだなぁ。と思うセロの顔があった。


「セ、セロさん!」

「ほら行くよ! もう明るいから顕微鏡も使えるし! いろいろ見れるから! 昨日の夜の続き! 続き!!」

「え、え!?」


 セロは佐知子の手首を掴み、引っ張っていく。周りにいたライラを含む、女性の使用人たちは唖然としていた。


「ちょ、ちょっとセロさん! まだ身支度が!」


 手にしていたバラのオイルの瓶だけを持ったまま、セロに引っ張られていく佐知子。それでも、少し踏ん張ったりしながら抵抗を試みるが、ヨウたちに比べ細く見えてもそこはれっきとした男性。佐知子は敵うことなく、ズルズルと引っ張られていく。


「身支度? そんなの後々!! それより研究!!」


 セロは拳を上げ、意気揚々と歩いていく。


「…………」


 佐知子は唖然とした。


(この人……ちょっとなんか……)


 見かけは容姿端麗な西洋の王子様。

 しかし部屋はあの有様、そして昨夜の事、そして今のこの言動……正直、ちょっと普通じゃない。


 佐知子は少し恐怖を感じながら、瓶を握りしめ、引っ張られるまま昨夜のあの部屋へと連れ去られたのだった……。

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