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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第三章

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15 不思議な力。

しかし、そこで佐知子はあることを思いつく。


「あ! あの!! じゃあ、私からも一つお願い良いですか?」

「ん? 何?」


 テンションが少し下がったセロが手を離し答えた。


「あの……私、会話はできるんですけど、この世界の文字が読めなくて……なので、私も読み書きを教えて欲しいんですが……」


 おずおずと佐知子がお願いすると、


「えー、そんな流暢なアズラク語話してるのに? まぁ、いいよ! まかせて! この天才セロさんが教えてあげるよ! きっとすぐに覚えられるよ!」


 机の上から体を起こし、仁王立ちすると、親指を立ててセロはにっこりと笑った。


「え? あずらく語……? 私……話してます?」


 しかしそこで、佐知子はきょとんとしながら、疑問を口にした。


「え? うん、サッちゃん綺麗なアズラク語話してるよね?」

「ああ……そういえば……そうだな……」


 セロとヨウは顔を見合わせる。


「え! 私、日本語話してるつもりなんですけど! あれ! ていうか、私、周りの人の言葉、全部、日本語で聞こえてる! この世界だと、言葉違いますよね?」


 半ばパニックになりながら、佐知子はセロとヨウを交互に見る。


「……うん……俺らは……というか、この村では基本、話せる人はみんなアズラク語話してるけど…………ねぇ、サッちゃん、今日はいい天気だったね」


 しかし、突然セロがよくわからない質問をしてきた。


「え? 天気? こんなときになんですか? たしかにいい天気でしたが……」


 セロとヨウは再度、なぜか顔を見合わせる。


「ねぇ、サッちゃん! 明日も晴れるといいね!」

「……たぶん、晴れるんじゃないですか? ここ天気よさそうだから……」


 よくわからないが、眉間に皺を少し寄せつつ、答える佐知子。そんなことより、この不思議な言葉の現象の話をしたいのだが……と、思っていると、


「サッちゃん、本当に女神様なんだね! ヨウは神の使いって言ってたけど、今、本当に信じられたよ!」


 セロは机に手をついて、身を乗り出しながら瞳をきらきらと輝かせている。


「……何なんですかセロさん! そんなことよりこの言葉の不思議現象の話をしたいんですけど!」


 と、佐知子が少し大きめに叫ぶと、


「サッちゃん、今、自分がフラーウム語話してる自覚ある?」


 セロがイスに座りながらにこにこと顎に両掌をついた。


「え?」

「今日はいい天気だったね。が、エウペ語、明日も晴れるといいねがホン語、最後のサッちゃんは女神様なんだね。を、俺はフラーウム語で話したんだよ。それにサッちゃんは全部同じ言語で返してきた。ね? ヨウ?」

「……俺にはセロがよその言葉で、サチコはアズラク語で話してて会話が成り立ってるから意味が分からないんだが……」


 戸惑いの表情をするヨウ。


「え……私は全部、日本語で話して、日本語で聞こえてましたけど……」


 三人は眉間に皺を寄せて顔を見合わせる。


「んー……そうだなぁ……多分、サッちゃんにはこの世界の言葉が全部、ニホン語で聞こえるんじゃない? 何故かわからないけど。で、会話相手は自分が話した、話したい言語でサッちゃんの言葉が返ってくる……聞いてる人は……聞きたい言語で……ってことかな? 何かこんがらがるけど凄いねー、まさに神の力」


 難しい表情で顎に手を当てるセロ。


「そんなことって……あ!」


 あることを思い出し、佐知子は叫んだ。


「ヨウくん! 十年前、子供の時、ヨウくんから一粒貰ったぶどう食べたら、言葉が通じたの覚えてる!?」

「……俺は怪我をしてたし、そのあと意識朦朧としたからうろ覚えだが……確かそうだった気がする」


 ヨウはしばし考えたあと、答えた。


「だよね! あのぶどうのおかげだよ! それか、この世界の食べ物食べたからかな……だからこんなよくわからない言葉の……力? が、ついたんだよ!」


 少し大きな声で、佐知子はヨウに言った。


「へー……そんなことがあったんだ。ぶどうか……それかこの世界の食べ物だったら何でもいいのか……ま! よくわからないけど、サッちゃんはこの世界の言葉全部話せるみたいだね! まさに神の使い!」


 別に勉強する必要ないんじゃない~? と、イスを揺らしながらセロは笑っていた。佐知子とヨウは顔を見合わせる。


 この世界の言葉が全て分かる……というか、日本語で聞こえて日本語で会話が出来る……確かにそれは神の力だな……と、佐知子は思いつつも、


「いや……でも、話せても書けて読めないと困るので……セロさん、あずらく語? 教えてもらっていいですか?」


 少し冷静になって、佐知子はセロに問う。


「いいよ! 話せるなら楽なもんだよ! なんならエウペ語、ホン語、フラーウム語まで教えてあげるよ! 四ヵ国語、制覇だ!」

「あ……いや……」


 ここで使われてる言葉だけでいいんだけど……勉強そんなに好きじゃないし……と、思いつつ、そこで佐知子はさらにハッとする。


「あ! あの! 言葉はとりあえずここのだけでいいんですが、あの……何て言うか……この世界の一般常識も教えてもらえますか? ほん……とか、あずらくっていう国があるみたいなんですが、私、そういうのも分からなくて……この先いろいろと困ると思うんで……」

「ああ、うん、いいよ。まかせて!」


 セロは笑う。その笑顔に佐知子はほっとした。


「さーて! じゃあ、この荷物は預かっておくから、サッちゃんはまた明日夜が明けたら来てね! 明るくなったらすぐ来てね! 飛んで来てね! 見ながら聞きたいことが、まだまだ沢山あるから! 必ずだよ! 絶対だよ! 俺はこのまましばらく調べてるから!」


 突然の厄介払いプラス、夜明けにすぐ来いとのセロの言葉に佐知子が呆然としていると、ヨウがイスから立ち上がる。


「……はいはい、わかったわかった。サチコ、行くぞ……」

「え、あ、うん……それじゃあ、セロさん、おやすみなさい……」

「うん、寝ないけど、おやすみー!」


 寝ないんだ……と、思いながら佐知子はヨウと共にセロの謎の部屋から出て、扉を閉めた。荷物取られちゃったな……と、思ながらも、怒涛の展開が終わり、ほっと息をつくのだった。

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