14 異世界の物。
「別に……特に珍しい物持ってないですよ……」
佐知子はそう言いながら、リュックのチャックを開けて、テーブルの上に元の世界から持ってきた物をのせていく。
制服やペンケース、教科書や空のペットボトルに、血まみれのタオル……。
「うわー! すごいね!! すごいね!! 見たことない物ばっかり! さすが異世界の女神様!」
その言葉に、だから……と、ヨウがうんざりした表情をして額に手を置く。
しかし、セロはスイッチが入ってしまった様で、ヨウのことなど気にもとめず、テーブルに置かれた物をあちこち手に取り、ランプにかざして見ている。
「ねぇ、サッちゃん! これ分解してもいい!?」
ボールペンとシャープペンシルを持ちながらセロは瞳を輝かせる。
「え……うーん……いいような悪いような……今後、必要になるかもしれないし……元に戻せるならいいですが……」
「元に戻せるならか……溶かしちゃうからなぁ……」
「え! じゃあ、やめてください!」
佐知子は慌てて言う。
「この服はどんな繊維で出来てるのかなぁ……顕微鏡で……あー、今、夜か。早く朝にならないかなぁ。全然、見えないよ」
たまに問いかけられるが、あまりこちらの話は聞いていない様子で、セロは独り言のように話している。それを佐知子とヨウは見て、たまに返事をしていた。
「うわっ、この血まみれのタオル、何? カピカピ……」
セロが、もう乾燥した血まみれのタオルを持ち上げる。
「あ、それは……」
佐知子はヨウを見る。
「?」
ヨウは気づいていなかった。
「十年前に、ヨウくんの血を拭いたタオルです」
ふふっと笑って佐知子は言った。
「!」
ヨウは瞳を見開く。
「え……十年前のタオル? そんなのずっと持ってたの?」
「あー……私は二十分位で十年後に来たので、別に十年間ずっと持ってたわけじゃないですよ」
佐知子は弁解する。
「このタオルはいらない。あ、でも繊維は気になるな……上質だし……まぁ、いいやあとで。で、これは何の本? すごい上質な紙? 紙だよねこれ? 何て書いてあるの? サッちゃんの国の言葉?」
赤点補習の為、カバンに入れていた教科書を持ち、セロは佐知子に矢継ぎ早に質問する。
「あ、はい。紙ですよ。本です。学校の教科書です。私の住んでた日本という国の日本語です」
「ニホン語……ホン語と少し似てるね」
(ホン……また出てきたな……)
ぼんやりと佐知子は思う。
「これ内容は何が書いてあるの?」
三冊ある教科書を次々とめくりながらセロは問う。
「えーっと、数学と化学と英語ですね。わかりますか?」
「エイゴ……はわからないけど、数学と化学はわかるよ。エイゴって、何?」
「英語は私の国での外国語のことです。世界共通語だったので勉強してました」
「ふーん……そうか……数学と化学か……」
セロは何かを考えているようだった。
「よし! 決めた!! サッちゃん、俺にニホン語を教えて!」
「え!」
佐知子は瞳を見開き驚く。
「この本は数学と化学の教本なんでしょ? なら、ニホン語がわかれば異世界の数学と化学の知識が手に入るんじゃん! こんな凄いことってないよ! 今はまだ何が書いてあるのかまったくわからないけど、俺は異世界の知識を得てみせる! 絶対にだ!!」
セロは途中から立ち上がったままだったが、今は両手をあげて上を向き、興奮気味に叫んでいた。
佐知子は唖然としてセロを見つめる。ヨウを見ると、ヨウはため息をひとつつくと、口を開いた。
「……こいつはこうなると手がつけられないから……諦めてくれ」
「う、うん……まぁ……別にいいですけど……」
「ほんと!? ニホン語教えてくれる!? ありがとう、サッちゃん!」
セロは広い机に体をのせ、身をのり出し、佐知子の手を握る。佐知子は苦笑いするしかなかった。




