5-1 スーク。
アイシャに連れられ、先程ヨウと馬に乗って通った円形状の村の一番外側にある、スークという店舗がたくさん並ぶ場所にきた佐知子。
「まずは服だね。まぁ、スークを端から端まで歩けば買い忘れはないだろう。ここには生活に必要なもんがほとんど揃ってるからね。あと、同じ品物を扱う店がまとまってるから比べやすくもある。あんたも好みの物があったら遠慮なく言いなよ! あたしの金じゃなくて、ヨウの金なんだからね」
「は、はい!」
リュックを背負い、その上からまた布をまとい顔だけは出してスークを眺める。
先程は馬上からだったが、実際、歩いてみると異国情緒が凄かった。まさにアラビアの世界だ。
人種は様々だが、張り出したテントや並んでいる物、街並みや人の服装が映画やアニメで見た昔のアラビアの世界だった。
混雑具合はそれほどでもなく、少しゆったり買い物ができるのは嬉しかった。ヨウには悪いが、わくわくしながら買い物に意気込む佐知子。
「カンラはとりあえず二着かねぇ……あ、ここの店がいいかね」
カンラ? と、疑問に思いつつアイシャの後に着いて行くと、白いテントが張り出された店の前でアイシャは足を止めた。
店先にはたくさんの白地のワンピースの様な服、カンラが畳んだり、吊るされたりしていた。
(あ、この服みんな着てるやつだ……カンラって言うんだ)
佐知子がまた一つ、この世界の知識を得ていると、
「あら! アイシャじゃないの! 久しぶりね~」
店先のイスに座っていた年配の女性が立ち上がり、顔をほころばせた。
「ひさしぶりだね~。最近、買いにこなくて悪いねぇ。作業着ばっかり使ってカンラはなかなか着なくてねぇ! 貧乏人はやんなっちゃうよぉ!」
そんなことを話しながら、アイシャと女店主は楽しそうに笑っている。どうやら顔なじみらしい。
「あ、そうそう時間ないんだった。この子に合うサイズのを二つばかりと、あ、そうだ。あと、寝巻き用カンラも欲しいんだけど、あるかい?」
佐知子を放って話に花を咲かせた後、アイシャは思い出したかのように佐知子をずいっと前へ押し出した。
「はいはい……って、その布取ってもらわなきゃわからないよ」
「あ、すみません」
多分この後されるであろう反応を思い躊躇いもあるが、しかたない。佐知子は布をするりと外す。
「……あらま。めずらしい格好したお嬢さんだねぇ……」
「なぁ~んか訳ありでね。ま、ここでは詮索はなしだろ? とりあえず、刺繍のない真っ白のカンラ選んでおくれよ。無難なの一着持ってたほうがいいからね」
「はいよ」
女店主はどれがいいかねーと、棚をゴソゴソとあさる。
「質と値段は中ぐらいで頼むよ」
アイシャが横から口をはさんだ。はいよ。という返事が聞こえてくる。
「これなんかどうだい? 多分サイズ合うと思うけど着てみるかい?」
「え、いいんですか?」
佐知子はアイシャと女店主を交互に見る。
「どうせここで着替えさせようと思ってたから着てみたらいいよ。ねぇ?」
「ああ、その恰好じゃ、歩けないからねぇ」
二人はカラカラと笑っている。
「……じゃあ、着てみます」
そんなにセーラー服はおかしいのか……国が変われば文化も変わるというが、なんだか少し悲しくなる。




