3 国事部。
病院を出て軍用地の門を通り、再度、白い大理石の廊下へとやってきた二人。
国事部という所は、先程入った会議室の一つ手前の部屋だった。
ヨウはノックをして部屋へと入る。
(うわっ……)
中は学校の教室ほどの広さだった。そこにびっしりと机が置かれ、皆、絨毯に座りながら黙々と仕事をしている。
一番奥の机にハーシムが見えた。
「何か御用でしょうか?」
入口に向かい机が置かれた受付に座っていた、ハーシムと同じ白い服を着たアフリカ人の黒髪短髪の男性がヨウに声をかけた。
「ああ……ちょっとさっき特別にカーシャさんに使用人で雇う人の健康診断してもらったんだ。で、結果をハーシムさんに……」
ヨウは臆することなくカーシャから預かった書類をその人に渡す。
「……少々お待ちください」
書類に一通り目を通すと男性は立ち上がり、部屋の奥へと向かった。
そして、ハーシムに声をかける。ハーシムがこちらを見た。立ち上がりこちらへやってくる。
(う……怖い……)
佐知子は少し緊張した。
「問題なかったようだな」
ハーシムは二人の前に来るとそう言った。
「ああ……これで使用人小屋に行っても大丈夫か?」
「ああ、問題ない。仕事の当番や給料の詳細については追って書記官を遣わす。娘、仕事に励めよ」
ハーシムは切れ長の金色の瞳でじっと佐知子を見つめた。
「はい!」
佐知子は姿勢を正し、そう答えるのが精一杯だった。
「じゃあな」
ハーシムはそう言うと、踵を返し、颯爽と去っていった。シャランと、綺麗な音が鳴る。
「あ~、怖かった~」
国事部の扉を閉めた佐知子は思わず胸を押さえて言葉を漏らす。
「はは……ハーシムさんは一見、怖いからな」
「ヨウくんは平気なの?」
「まぁ……怖いのは一見だからな。もう慣れた」
ヨウはほんの少し笑う。
「さて……じゃあ、使用人小屋へ行くか」
そしてそう言うと、歩き出した。




