14 争いのない世界を。
謁見の仕事が始まり、何人かこなしたがそれほど大変な仕事ではなかった。
扉の向こうにいる護衛が扉を開き、入ってきた直後には、サチコ様! や、神の使いよ! と、駆け寄ってきた村民を、ヨウが一定の距離で止めたり、また冷静に、しかし嬉しそうにお会いできて光栄です。という村民や、試しに申し込んだら当たりまして……という人もいた。
しかし佐知子は長椅子に、謁見人は絨毯に座り話し出すと、皆、驚いて嬉しそうに言葉を捲し立てた。
佐知子には日本語だが、相手にはおそらく懐かしい母国語で聞こえているのだろう。
「食べるものもなくて、着の身着のままでこの村にたどり着いて……」
「はい……大変でしたね…………」
そして大抵の人が話すのは、この村にきた経緯。
それはとても辛く、悲しい話だった。
戦で村が焼かれた。
奴隷だが逃げてきた。
道中に子供が亡くなった……。
人の数だけ、そのひとりひとりに人生の物語があることを、佐知子は痛感しながら話を聞いていた。
「大丈夫か?」
数人を終えた後、ヨウが声をかけてくれた。
「……うん、ちょっと疲れたけど……大丈夫!」
佐知子は笑顔で答える。
難民としてこの村に来た人に比べれば、なんてことない。
合間の休憩にファティマが差し出してくれるシャイを飲みながら佐知子はそう思う。
そしてまた、争いのない、この世界を望んだ――。




