10 自分の知らぬ間に。
同行する手筈です。と言うファティマとミンを両脇に従え、前にヨウともう一人の軍人、後ろにもう二人の軍人に囲まれ、佐知子は貴賓室を出た。
貴賓室から専用の鉄の扉を通る。
久しぶりに外に出るな。と、眩しい太陽に目を細め、仰ぎ、懐かしく思っていると、周囲の目が気になった。
まだ軍用地の中だが、皆、遠巻きに佐知子を見ている。
まぁ、仕方ないよな。と思いながら軍用地の門まで来た。
「タカハシサチコ様、門から出ましたら、やってくる村民とは話さずに急いで病院へとお入りください」
急に真面目な表情でヨウにそう言われる。
え……と、佐知子は戸惑うが、
「はい……」
と、答えるしかなく門が開かれた。
佐知子が一歩、外に出ると、
「タカハシサチコ様ー!」
「神の使いよー!」
「サチコ様ー!」
突然、数十人の人達がわっと佐知子の元へ押しかけてきた。
佐知子が驚いて足を止めてしまうとヨウが盾となり村民を阻み、
「早く病院へ急げ!」
佐知子に走るよう指示する。
何が起こっているのかわからないまま、ファティマとミンに庇われながら走り出すと、
「下がれ!」
「話せるのは抽選に当たった者だけだ!」
という他の軍人の声が聞こえた。
「サチコ様!」
村人の声が聞こえる……いつの間にこんなことに……と、小走りで病院へ向かっていると遠くから眺めている人達の姿が目に入った。
走りながらだが冷静に観察すると、自分を取り巻く人は数十人でおそらく熱心な教徒……信奉者という感じの人達なのだろう……一体、自分が部屋に閉じ込められている間に、村はどうなっていたんだろう……と少し村の情勢を心配しながら佐知子は病院の中へと入った。
扉が閉められ、ほっと息をつく佐知子。
「大丈夫か?」
ヨウが声をかけてくれた、いつも通りの言葉で。
「うん」
それが嬉しくて、少し驚いた表情をした後、佐知子は笑顔で返事をした。
「っ……」
ヨウが言葉に詰まり、顔を反らす。
「…………」
そんなヨウを見て、ヨウとも話さないとなー……と、佐知子は病院内の用意された部屋へと向かった。




