9 他人行儀に。
翌日、佐知子はセーラー服の脇のチャックを締め、赤いスカーフを胸の前できゅっと結ぶと、鮮明には見えない鏡を見た。
そこにはこの世界に来たときの自分の姿がぼんやりと見えた。
肌はずいぶん焼けたが……。
昨日、ハーシムと黄が部屋を出て行ったあと、国事部の役人が面会の仕事の詳細を伝えに来た。
時間は変わらず昼から日没まで、一時間の面会の後、十分休憩を入れてくれた事に佐知子は感謝した。
村人との面会場所は病院の一室を借りることになった。
明日、十一時に警護の者が迎えにくるので支度をして待っていて下さい。と言われたので待っていると、部屋をコンコンとノックする音が聞こえ、佐知子は鏡台の前から振り向いた。
ファティマが扉を開けると、そこにはヨウと後ろに三人の男たちがいた。
「……ヨウ!」
久々に会うヨウに戸惑いつつも、少し嬉しく微笑みながら佐知子が声をかけると、
「……神の使い、タカハシサチコ様の護衛はこの四人で行います。お支度は整っていますでしょうか」
と、ヨウは瞳を伏せて言った。
そんな他人行儀な……と、悲しくなる佐知子だが時間は待ってくれない。
遅刻しては大変だ。
「……はい、準備はできています」
「では、参りましょう……」
ヨウは瞳を伏せたまま答えると背を向けた。




