1-1 セロと黄。
話は終わったな。と、ハーシムは言うと席を立つ。
しかし、ふと佐知子を見た。
「娘、使用人小屋に行くのならその前に健康診断を受けろ。疫病を持ち込まれたら困るからな。カーシャ、急だが頼めるか?」
「はいよ。時間空いてるからやっとく」
悪いな。と、一言言うと、颯爽と白い服をなびかせ、頭につけた装身具をシャラシャラと鳴らし、ハーシムは白い部屋を去って行った。
後に続き、ハーシムとそっくりな格好をした、まだ小学生くらいの極東アジア系の少年も出て行った。
去り際にちらりと佐知子を見て、佐知子と一瞬目があうが少年は無表情のまま目をそらし去って行った。
それに続き、皆が席を立つ。
「ねぇ! これ君の世界の服!? 凄いスカートの丈短いね!! これが普通なの? 娼婦と間違われない?」
すると一目散にセロが佐知子の側に駆け寄ってきて、佐知子を上から下まで舐める様に見て質問をしてきた。
「えっ!」
「セロ!」
そんなセロに戸惑う佐知子と不快感を露わにして名前を呼ぶ、ヨウ。
「この腕輪、何? あ!! この右手のベルト動いてる! あれ? 時計!? え! うそ!! 凄い小さい! 何これ!? どうやってこんな小さいの作ったの!? 分解していい!?」
セロは佐知子が右手首につけていた腕時計に興味を持ち、佐知子の右手を勢いよく取ると持ち上げ、顔を近づけじっと見つめている……。
「……触るな」
「あいた!」
佐知子の右手を持ったセロの手を手刀でヨウは叩き落す。
「なんだよー! もー!! ヨウが女神様大好きなのは知ってるよー! だけど僕だって違う世界の物気になるんだよー!!」
その場でジタバタと足踏みをするセロ。
「…………」
何だこの人は……と、正直佐知子は思った。
セロという男性は、正直、物凄く完璧な西洋の王子様だった。
さらりとしたショートカットの金髪。透明感のある水色とも思える碧い瞳。白い透き通るような肌。
そして背丈もヨウよりは小さいが百八十センチメートルはあるのではないか……というくらいで、体格はがっしりとはしていないが、痩せすぎてもいず、スリムでまさに理想体型。
完璧な王子様……なのだが…………
「ヨウ、独占しないでよー!! 気になるじゃん! だって違う世界から来たんだよ!? もう解剖したいくらいだよ!」
「やめろ!」
瞳をキラキラと輝かせながら、こんなことばかり言っている……。
(ちょっと……変わった人なんだろうな……)
佐知子はそう思いながら、そっとヨウの背後にさりげなく隠れた。
「はいはい、坊ちゃん。お前さんの探究心がうずくのはわかるが、このあと嬢ちゃんは健康診断があるからな~。行くぞ~」
そこへ、のったりのったりと歩きながら、黄がセロの背を押して行く。
「あ~! 黄さ~ん!」
喚くセロを黄が押す。
「あ、あの!」
去ろうとする黄の背中を佐知子は呼びとめた。
黄は振り返る。
「あの……っ、十年前は本当にありがとうございました! あと、私がいなくなったあと、ヨウくんを助けていただいて、本当にありがとうございました!!」
佐知子はお辞儀をしてお礼を伝える。
「…………」
黄は立ち止まり、すこし面食らっていた。
「ははっ! 十年越しのお礼か。いやいや、あの時は野犬退治のついでに助けただけだし、むしろお前さんたちを囮に使ったしな。まぁ、気にすんな。ヨウも運良く助かったし、よかったな。女神様」
黄は、ぽんぽんとその大きな手をもう一度、佐知子の頭にのせた。
「…………」
佐知子はまたもや頭を撫でられ、驚く。
しかしまた、ほっこりとした気分になり、嬉しくなった。
顔を下げ、少しほほえむ。
「……もう早くいけ、二人とも……」
そんな佐知子の様子を察したのか、ヨウは表情は変えないものの、分かる人には分かる少しむっとした様子で言う。
「はいはい」
黄は笑った。
「あー!! 僕はまだ聞きたいことたくさんあるのにー! あとで会いにいくからねー!」
じたばたともがきながら、黄に押され部屋を後にするセロだった。




