8 交渉と処罰の実感。
「セロ……」
瞳を閉じ眉間に皺を寄せて、ハーシムが大きくため息を吐くと、
「あー、確かにな。娼婦っぽいけど、あの服独特だしな」
「黄!」
黄も賛同し、隣にいる黄にハーシムは半ば叫びながら名を呼ぶ。
「あ、もし! 外交官として他の国の人と会う時、私の世界から持ってきたリュ……カバンに色んな物入ってるんで! それ持って行ったら信じてもらえると思いますし! 私がこの世界に来た時の格好でいた方がやっぱりいいと思うんです! この世界の格好して違う世界から来た神の使いですとか言っても嘘ついてると思われるだろうし!」
このチャンスを逃すまいと、佐知子が早口でまくしたてると、
「…………」
三対一のような状況と、言っていることは確かに納得する部分もあるが、しかし、ハーシムらしくなく感情がおさまらず、眉間に深い皺を寄せて目を瞑り、苛立ちながら腕を組み少し俯く。
しかしそこは村の共同代表であり、感情に流されずきちんと合理的な判断をするハーシム。自分の感情に任せて決め事はしない。大きくため息をつくと、
「……わかった、これからお前の仕事着はあの服でいい」
静かに瞳を開き、少し小さな声で佐知子の意見を許可した。
佐知子の表情が輝く。
「ハーシムさんすみません……わがままばかり言って……本当にありがとうございます!」
そして頭を下げて詫びと感謝の言葉を伝えた。
ハーシムは一つ息をつくと、
「お前に振り回されるのはもう慣れた……」
組んでいた腕を下ろし少しうんざりした風にハーシム視線をそらした。
あはは……と、苦笑いしながら佐知子が顔を上げると、
「追って仕事の詳細は伝える。その間反省文でも書いていろ。ちなみにだが面会の仕事をしながら反省文と神話の書き写しだからな」
「え!」
佐知子が驚いた顔をすると、ハーシムは少し愉快そうにふっと笑い、
「それじゃあな……」
と、いつもの無表情に戻って部屋を出て行く。
「がんばれよー、嬢ちゃん!」
黄も後に続いた。
二人が部屋を出て、ミンが扉を閉めると……
「マジか~~~~!」
と、手に持った重い本とパピスを抱えながら、佐知子は上を向いて叫んだのだった。




