4 私らしく。
「娘はまだか……」
大勢の村人が集まった広場で、時間が過ぎても来ない佐知子に苛立ちながらハーシムはつぶやくように言った。
噴水のある広場は村の共同代表から知らせがあると事前に告知をしていたのと、最近、村の噂で持ち切りの、神の使いが姿を現すだろうという予想で人が大勢集まり、すし詰め状態だった。
役場の前の鉄で出来たお立ち台の横には、ハーシム、黄、セロ、カーシャ、トト、タカヤや、他の高官たちも揃い、ヨウと他の軍警察の人間に警護されながら軍用地の門から出てくる手筈の佐知子を待っていた。
すると軍用地の門がゆっくりと開く。
やっと来たか。と、ハーシムが眉間に深い皺を寄せながら見ていると、ヨウを先頭に軍警察囲まれ、左右にファティマとミンを従えた白い布をかぶった佐知子らしき人物が歩いてくる。
ハーシムはその佐知子の姿に疑問を抱く。
軍用地の門からお立ち台へと向かう少しの間だが、佐知子らしき人物が門から現れた瞬間叫び声と『サチコ様!』『神の子よ!』と駆け寄る熱狂的な信者と化した人々がいた。
軍警察が必死に守りながらお立ち台まで行こうとしていると、ハーシムはハッと気づいた。
「あの娘!! おい! 中止だ!!」
ハーシムが周りの人々に叫ぶのと同時に、その声を聞いた佐知子らしき人物は駆け出した。
守っていた軍警察の間をすり抜け、素早くお立ち台の上に駆け上るとバサッとかぶっていた白い布を脱いだ。
白い布が風になびいた。
「みなさん、こんにちはーーー!!」
そしてそこに現れたのは、あの日、ヨウと出会った日の姿。
ローファーに紺のハイソックス、短いスカートと赤いスカーフをつけた、セーラー服姿の佐知子だった。
こっそり作ってもらった赤いスカーフと、この世界に来た時の長さに切った黒いセミロングの艶やかな髪をなびかせ、佐知子は大声で叫んだ。
「あっ……の娘! おい!! あの娘を……!」
ハーシムは眉間に皺を寄せ止めようとするも、
「この世界の創造主に! この世界の大戦争をとめるように! 違う世界からやってきました! 高橋佐知子と申します!」
佐知子は真っ青な空と今日も強烈な日差しを放つ太陽の下、笑顔で叫んだ。
その言葉に、広場はざわつく。
「…………」
もう手遅れだとハーシムは察し、大きなため息をついて目を閉じ口をつぐんだ。
「佐知子が名前で、高橋が名字です! この服は娼婦ではなく私の世界の学校の制服です!」
大きな声で、佐知子は叫ぶ、伝える。
しかし次第に目の前にいる大勢の人々に、ドクドクと今更ながら緊張してきた。
怪訝な表情をしている人。
嬉しそうに手を叩いて歓迎している人。
呆然としている人……。
様々な人の表情が、遠くからでもわかる。
しかしぎゅっと手を強く握り、佐知子は言葉を続けた。




