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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第七章

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1 パピスの束と思うこと。

 ハーシムからの指導は最初以外はファティマに引き継がれ、あれから佐知子はファティマに指導を受けていた。


「違います。身体の上半身を動かさずに、足だけをお出し下さい」

「はい……」


 昨日教えて貰ったばかりなのもあり、未だに歩く所作にすら慣れない佐知子。

 するとコンコンと、扉を叩く音がした。

 すかさずミンが扉を開けに行く。


「入るぞ」


 ハーシムだった。


 反射的に身体を硬直させる佐知子だが、自分のために忙しい時間を割いて来てくれていることを思い出し、思考を思い直して体の緊張を緩めた。


「ハーシムさん、今日もありがとうございます!」


 そして深いお辞儀をして礼を述べる。


「…………」


 ハーシムは一瞬、瞳が揺らいだ。

 しかし、いつもの無表情に戻り、


「軽率に神の使いが頭を下げるなと何度も言っているだろう……まぁ、いい。今日はスピーチの原稿を持ってきた。これを一言一句、間違えずに読めるよう練習しろ。あと、今日は衣装の採寸もある。このあと仕立て屋がくるから待っていろ」

「はい!」


 背筋を伸ばし、覚えたての立ち方で佐知子は答えた。


「……指導の成果は……まぁ、出ているようだな」


 少し息を吐き、気を緩ませるハーシム。


「あと七日しかないからな、しっかり頭に叩きこめよ」


 そしてパピスの束を佐知子に渡す。


「……だから思ってることが顔に出過ぎだ、直せ」


 パピスの分厚い束にうっと怯んだ表情をした佐知子に、ハーシムは瞳を細めて少し睨むように言う。


「すみません……」


 慌てて佐知子は表情を無にする。


「じゃあな、私は仕事に戻る」


 佐知子に背を向けると、ファティマが扉を開けに行く。


「……ハーシムさん、今日もありがとうございました」


 教えられたばかりのお辞儀の仕方で頭を下げる佐知子。


「……礼を言うのならば、結果で見せろ」


 ちらっとハーシムは振り返ると、そう言い去って行った。


「…………」


 受け取ったパピスの束を少し読む。


 読める部分もあるが、案の定読めない言葉が沢山だった。

 これは音読してもらってノートに日本語で書かないとな。と、ノートを出そうと佐知子が棚を見ると、そこにはここに来たときの服……セーラー服が鉄と草の蔓で出来たハンガーにかかって吊るされていた。

 懐かしい……と思いつつ、佐知子の脳裏にあることが浮かんだ。


「私は、私らしく……」


 そしてそう呟いた後、パピスの束を見た。

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