12 自分らしく。
「えっとねー、三日月の日がなんで重要かって言うと、この世界の創造神がこの世界を作った日だとされてるからだよ。詳しくは、創造神話でも読むといいよ。確か研究室のどこか……あ、でもちょっと難しいかな、アズラク語だけど」
三日月の日について、セロはクッションに寄りかかりながら軽く説明した。
「そうなんですか……あ、だからこの世界の大地、三日月の形してるんですか?」
佐知子がそう問うと、
「逆じゃなーい? 大地が三日月だから昔の人が勝手に……ああ、でも、サッちゃんは創造神と会ってるから本当にいるんだね。俺は無宗教だから創造神話は後から誰かが造った作り話だと思ってたんだけど……あ、ねぇ! 神様に聞いてみてよ! 創造神話は本当なんですかって!」
バッと体を起こすと、セロはキラキラと瞳を輝かせて言う。
「え……いいですけど……多分、答えてくれないと思いますよ」
そう言うと何となく天井を見つめて、佐知子は心の中で神様……創造神に声をかけた。
(神様ー、今ちょっと話せますかー?)
「…………」
皆、黙り、部屋は静寂に包まれる。
(神様ー、ちょっと聞きたいことが……ダメですか?)
「…………」
神様からの反応はなく、徐々に困惑した顔になる佐知子。
「ダメでした! 返事してくれません!」
そして頭を下げる。
「あー! ダメかー! なんかいつもダメだなー!」
クッションを抱えて、セロがむくれた顔をする。
すると頃合いを見て、銀のトレイに乗せた綺麗な装飾が施されたシャイのグラス、そしてたくさんのお菓子をファティマとミンが持ってきた。
「お茶をお持ちしました」
並べられる金や銀のきらきらとした食器とシャイとたくさんのお菓子。
「わー! 凄い! あり……あ、何でもない」
ありがとうございます。と言いそうになって、佐知子は言葉を止めて少し俯く。
「え、何? どうしたの?」
セロが甘いお菓子をさっそくつまみながらサチコを見る。
「え……いや……なんでもないです」
苦笑いしながら答える佐知子に、
「えー! 何々ー! 話してよー! 俺らの間で気つかわないでよー! ね、ヨウ?」
と、セロがヨウに振ると、
「ああ……俺らの間に余計な気は無用だ。まぁ……サチコが話したくないならいいが……何か悩んでたり困ってたりしたら遠慮なく話してほしい」
ヨウは佐知子の瞳を真っ直ぐに見て真剣な表情でそう言った。
「…………」
サチコは少し黙り、考えた後、
「あの……神の使いらしい言葉使いや振る舞いって、何だと思いますか?」
「え?」
その言葉にセロが少し驚いたように一言、口に出す。
そして、少し考え、
「んー、神の使いなんて前例がいないからねー」
もぐもぐとお菓子を咀嚼しながら、セロは考えるように視線を上に向け答えた。
「何? ハーシムさんに、神の使いらしい振る舞いしろ! とか言われた?」
笑うセロに、
「いや……ハーシムさんには言われてないんですが……何か……お世話してくださる方と接してるうちに、私、今まで通りじゃいけないんじゃないか……とか思って……ありがとうございますとか、貴賓室使うような人達は言わないって言うし……」
俯きながら話す佐知子に、
「まぁー……確かに、貴賓室使うお偉いさんたちは使用人にありがとうなんてほぼ言わないよねー。でも、さっちゃんは無理してそんな風にしなくてもいいんじゃない? ねぇ、ヨウ?」
お菓子を手に持ったま、セロはヨウに顔を向ける。
ヨウはじっと佐知子を見つめていた。
「……サチコはサチコのまま、サチコらしくしてればいいと思う。無理に偉そうにしたり、へりくだったりはしないで、サチコの素で、時と場所に合わせて自分が言いたいことやしたいことをうまく伝えたり、行動したらいいんじゃないか……」
淡々と話すヨウに、佐知子とセロは思わずじっと見つめた。
「無理をしてもボロが出る、無理をすると心や体を病む。無理はしない方がいい……サチコはそのままでも神の使いとして十分だ……見ず知らずの奴隷の俺を介抱してくれたんだし……」
言い終わるとヨウは少し照れくさくなったのか顔を俯けた。
セロはしばしヨウを見て、ふっと微笑み、
「そうだね! 俺も長官だけど自分らしくいるし! 長官とは思えないとか変人とかよく陰口言われてるけど気にしないで自分の好きな様にしてるし!」
ははは! と、セロは笑う。
そんな言葉に、佐知子も少し泣きそうになりながら、
「はい! 自分らしくいます!」
と、嬉しそうにほほえんだ。




