6-1 女神様。
中へ入ると、そこは太陽の日差しがほどよく入る、風通しのいい白い部屋だった。
南部屋なのか、日差しが幾何学模様の窓格子に降り注ぎ強い影を落としている。
そして同じくその窓格子から涼しい風が入ってくる。
中央には大理石の綺麗な白い長い石の机と、鉄と草の蔓のイスがあり、そこに座る佐知子の見知らぬ五人と、ハーシムのそばに立つ一人の少年。
肌の色も違っていれば、目の色も、年も、性別も皆、違っていた。
「で、いい加減その布を取ったらどうなんだ」
ハーシムが眉間に皺を寄せる。
「ああ……そうだな。サチコ、もう取っていいぞ」
そう言われて佐知子が頭から被っていた布をするりと外し、手にかける。
リュックを前にかけていたことに気づき慌てて手に持った。
「……どこの娼婦を連れて来たんだ」
呆れた顔で発せられたハーシムの言葉に佐知子はショックを受ける。
「ハーシムさん……娼婦じゃない……おっさん、この……女性に見覚えないか……」
「あ? なんで俺に聞くんだよ……まぁ、この村のかわいこちゃんは大体、覚えてるが……こんな奇妙な格好したねぇちゃんは知らねぇぞ?」
おっさんと呼ばれた、先程ハーシムを突き飛ばし部屋から出て来て佐知子を珍しがって見ていた、日本人によく似た黄色人種の男性は、佐知子をじっと見つめたあと首を傾げた。
佐知子はその男性に視線を向ける。
男性は三十代後半か四十代前半に見えた。
背丈は先程かなり高いことは確認したが、座っていてもかなりがっしりとした体格の良さが伺える。
黒髪短髪で、顔や腕、至る所に刃物で切られたのだろうか……佐知子には見慣れない傷跡がたくさんある。
クリーム色のゆったりとしたシャツを肘までまくっていて、白いゆったりとしたズボンを履いてどっしりと椅子にもたれかかり、腕組みをしているその男性を見ていて、佐知子はハッとあることに気づいた。
「あ! あの時、ヨウくんと私を助けてくれたおじさ……方ですよね!! 十年経ってるからわからなかった!」
その言葉でおっさんと呼ばれた男性はきょとんとする。
「……サチコの方が気づくのが早かったか……」
ヨウは薄くほほえむ。
「あ? 十年って…………ああああ!! あ! あの!! ヨウの女神様か!!」
「え?」
おっさんと呼ばれる男性の『女神様』という言葉に、今度は佐知子がきょとんとした。
「ばっ! やめろ!」
ヨウは慌てて腕を払う動作をし、顔を赤くしている。
「え! うっそ! ヨウの女神様ってあの女神様? 実在したの!! ほんとに!?」
慌てるヨウに、先程セロと呼ばれた、金髪碧眼の青年がガタンと席を立ちテーブルに手をつき叫んだ。
「だからやめろって!」
真っ赤な顔をしてヨウが叫んでいる。
(女神様……)
まさか……あたし? と、佐知子は思いながらなんとなくヨウを見た。
ヨウは耳まで真っ赤になりながら、掌を額にあて、困った様子をしている。
「おー……まさかまた会えるとはなぁ……女神様。しかも、十年前とまったく変わらねぇじゃねぇか! さすが女神様だぜ」
関心したようにおっさんと呼ばれる男性は腕を組んでいう。
「黄……話が見えないのだが……」
ハーシムが更に眉間の皺を深める。
「ハーシムさん! 凄いよ!! 神様現れちゃった!!」
「セロは黙ってろ!!」
ヨウが叫ぶ。
「はいはい。賑やかのはいつもの事だけど、話が見えないしいつまでたっても話が進まないから、ヨウの話聞こうね」
すると、セロの隣に座っていた長いドレッドヘアのスリムなアフリカ系女性が、パンパンと手を叩いた。
(綺麗な人……目が赤い……)
佐知子は思わず心の中でつぶやいた。
その女性の隣には、同じくアフリカ系の坊主頭で眼鏡をかけた大人しそうな男性が座っていた。
こちらの男性も瞳が赤い。血縁者だろうか。と、佐知子は思う。
「……カーシャさん、助かる……」
カーシャ。という女性はウインクをした。




