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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第六章

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5 湯船に浸かれる幸せ。

 貴賓室用のハンムに入ると、ある物を見つけた。


「あ! 湯船!」


 つい声を上げてしまい口を押さえる佐知子。


「湯船をご所望ですか?」


 背後から静々と歩いてきたファティマにそう問われ、佐知子は久しぶりのお湯につかれるかもしれないチャンスに少し戸惑いながらも、


「う、うん!」


 と、返事をする。


「それでは準備を致しますので、それまでハンムの石の上でごゆっくりお過ごしください。まずは体を洗わせていただきます」

「はい……あ、うん」


 貴賓室用のハンムで、石で出来た低いイスに座りながら佐知子はお湯をかけられ、体をいい香りの石鹸で洗われる。


 その後、佐知子が中央の石の上で寝ていると、ファティマは大理石で出来た足が伸ばせる位の長さの一人用の湯船の中に、脇にある湯だまりから桶でお湯を入れていた。


 佐知子が石の上でほかほかしている間に、ファティマはどのくらい繰り返しただろう。お湯を湯船に十分に入れ終えると佐知子の元にやってきた。


「湯船の準備が整いました。お入りになられますか?」

「あ、は……うん」


 また、はい。と、敬語を使いそうになり言い直す。


「それではどうぞ」


 すっとファティマは体をずらし手で佐知子を促す。


「…………」


 どれくらいぶりだろう……と、佐知子は思いながら湯船に近づいてそっと足を入れた……そしてそのままゆっくりと体を沈める。


「っ~~~~~!」


 本当は『あ~……』とため息のような声を出したかった。


(きっもちいい~~~~!!)


 目を瞑り佐知子は嬉しそうに微笑みながら少し身震いし、久しぶりに浸かるお湯の感覚に心の中で叫んだ。


「ファティマ! ありがとう!!」


 顔を上げてファティマに笑顔を向ける佐知子。


「……いえ」


 ファティマは少し驚いたような表情を見せるがすぐに真顔に戻し返事をする。


(やっぱり湯船は最高だな~~! どれくらいぶりに入ったかな!)


 少しぬるいが久々の湯舟に、佐知子は心の底から嬉しくなる。


「は~……」


 首ぎりぎりまで浸かり、ため息を吐く。


 気持ちいい。


 ただ、それだけしか思わなかった。

 日本にいた頃は面倒くさがって入らなかったことも多々あったが、疲れた時やリフレッシュしたい時は入っていた。

 しかしこちらの世界に来てからは、ハンムだけでずっと入れずにいた。


 湯船に浸かれることはこんなに幸せなことだったんだなぁ……と、佐知子は思いながら、どんどんぬるくなるお湯に淋しさを感じながらも、ザバッと音を立て湯船から上がる。


「ファティマ、ありがとう! 久々にすごく気持ちよかったよ!」


 笑顔でいう佐知子に、


「いえ、お礼は無用です。ご入浴は以上でよろしいでしょうか」


 ファティマは真顔で返す。


「……うん、もういいよ」


 真顔を崩さないファティマに少し淋しさを感じながら、佐知子とファティマは先程の更衣室の様な場所に戻るのだった。

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