1 貴賓室とお世話係。
軍用地に戻ってヨウに馬から下ろされ、荷物も下ろし、ヨウは馬を下級兵士に渡すと、二人は貴賓室へと向かう。
白い廊下に入ると左手の奥から二番目、国事部の向かい側の部屋の前に、人が二人立っていた。
「あそこが貴賓室だ……」
ヨウがそう歩いて行く。
部屋の前に着くと、
「お初にお目にかかります。私、本日からタカハシサチコ様のお世話係になりました、ファティマと申します」
「お初にお目にかかります。私はミンと申します」
貴賓室の前にいた二人は、褐色肌の黒い髪を右肩に緩くまとめた四十代くらいの女性と、佐知子と同い年位の極東アジア系の黒い三つ編みを両側に下げた少女だった。
二人とも刺繍が胸元にほどこされた綺麗なシルクのカンラを着ている。
二人はそう言って、佐知子とヨウの前に並ぶと綺麗な一礼をした。
「お世話……係?」
きょとんとして佐知子はヨウを見上げると、
「……もう……サチコは今から神の使いだから……な」
まぁ、前からだがな。と付け加えてヨウは静かに答えた。
「あー……そうか、貴賓室使うしね」
「ああ……」
二人で言葉を交わした後、
「サチコ……タカハシサチコです、今日からよろしくお願いします」
佐知子はお辞儀をした。
「……よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
ファティマとミンは深々と頭を下げる。
「…………」
そこで佐知子はふと疑問に思った。
「あの……今の言葉、何語で聞こえました?」
そう、最近は驚かれる事がほとんどだったので、驚かず淡々と日本語で挨拶を返してきたので疑問に思ったのだ。
「アズラク語です」
「私もです」
至極冷静に、真顔でファティマとミンはそう答える。
「え……お二人とも母国アズラク帝国なんですか?」
不思議に思い聞くと、
「いいえ、違います。けれどハーシム長官から、タカハシサチコ様が話すお言葉はすべてアズラク語だと思うように。と、言いつかっておりますので、そのように思いお言葉を拝聴させていただきました」
「私もです」
「…………」
二人の言葉に、佐知子はなんとなく微妙な気持ちになって複雑な表情をする。
「もうよろしいでしょうか、ハーシム長官がいらっしゃるまでに身支度を整えなければならないのですが」
ファティマが真顔……無表情で言う。
(さっきからこの二人ずっと真顔……無表情だなぁ……警戒されてるのかな……)
と、佐知子は思いつつも、
「はい、すみません」
と答え、こちらへどうぞ。と扉を開けられ、進められた貴賓室へと入る。
「うわっ……」
一歩足を踏み入れて、中を見て佐知子は立ち止まってしまった。
なぜなら中は豪華絢爛、佐知子の思い描くような見事なアラビアの部屋だったからだ。




