4 二人で話しながら思うこと。
「……何だか……ゆっくりだが、いい方向に向かってるな……」
隣で歩幅を合わせて歩いてくれるヨウが、佐知子に少し微笑む。
「え……ああ……うん、そうだね……ゆっくりっていうか、結構ドタバタだけどね……最近は……」
ははは。と、佐知子は笑う。
「……これでまた……サチコに気軽に会えるな……」
「え?」
佐知子が顔を上げながらヨウを見ると、ヨウは少し恥ずかしそうに、けれどどこか嬉しそうに微笑んでいた。
「役人宿舎に行ってから……まったく会えなかったから……勉強会もないし……」
「あー……そうだったね。私も軍用地入れなかったし……」
ヨウと佐知子は歩きながら話す。
食堂や外の訓練場で通り過ぎる人にちらちらと見られ、佐知子はここにも変な噂が広がってるのかな……と、思った。
「すまない、俺の馬を持ってきてくれるか?」
「は、はい!」
門の近くに着いて、ヨウが近くにいた下級兵士に頼む。
「私、一人で待ってるよ?」
佐知子がヨウに聞くと、
「……それじゃあ護衛にならないだろう」
ヨウはふっと笑った。
「え、軍用地内だよ?平気じゃない?」
戸惑いながら佐知子が返すと、
「軍用地でも……どこでも油断は禁物だ。サチコもそう思った方がいい……」
急に真剣な表情になり、ヨウは言った。
「……うん……」
佐知子が真顔になり俯いた時、馬が連れてこられた。
ヨウに引っ張られ馬に乗る。
もう馬に乗るのも慣れてきたなぁ……と、思う佐知子。
馬に乗り、役人宿舎に行くまでに思い出す。
そういえばアーサーさんと歩いてたら頭下げられたり手を合わせて拝まれたりしていたな……と。
あれは全て広まっている噂のせいだったのか……と今更ながら佐知子は思う。
「ねぇ、ヨウ。私って鈍いかな?」
「…………」
顔を上げて問う佐知子に、ヨウは少し驚いた顔をする。
「……鈍い……というか……あまり周りの……なんというか……危機感がないかもしれない……な」
少し考えてヨウはそう答えた。
「危機感かー……まぁ、日本でぬくぬく育ったからなー……気をつけないとなー……」
佐知子はそう思いながら、危機感ってどう身につければいいんだろう……などと考え、青い空を見上げた。




