3 神の使いとして。
中に入ると、ハーシムはもちろん、以前と同様、いつものメンバーが揃っていた。
「…………」
少し緊張してくる佐知子。
「サチコを連れてきた……」
皆にそう告げると、ヨウは自分の席に座ろうと佐知子の側を離れる。
「あの……お久しぶりです」
皆に頭を下げる佐知子。
「……いいから、そこの席に座れ」
「はい……」
眉間に皺の寄った機嫌の悪いハーシムにそう言われ、以前も座った扉から一番近い席、上座のハーシムの向かいに座る。
「…………」
ハーシムはじっと佐知子を見つめていた。
(な、何……何で呼ばれたんだろう……何か役場でミスしたかな……)
戸惑いながらも佐知子はぎゅっと白く長い大理石のテーブルの下で手を握り、身構えていた。
はぁ、とハーシムが瞳を閉じて大きな溜息をつくと、口を開いた。
「単刀直入に言う。お前がアーマを中心に神の子と言われているのは知っているか?」
「あ、はい……たまに言われます……」
その話題か……と、佐知子は少し嫌な気持ちになる。
アーマ宿舎では『あなたは本当に神の子ね……』などと言われ、歩いているとたまに『神の子よ! お話をしてください!』などと言われたりしていた。
戸惑いつつ、いや、神の子じゃないです。とその都度、否定していたのだが……。
「その話がアーマ、貧困層を中心にかなり広まった。先日、一部の過激派がお前を拉致監禁して崇めようという計画を立てていたのを……軍の一部が阻止した」
「は!?」
思わず叫んでしまい、佐知子は慌てて口に手を当てて小さな声ですみません……と謝る。
「黄と話したのだが……もうこのままお前を一般人として扱うことはできんと判断した。お前を神の使いとして公表する。外交にも使うつもりだ。お前の思う通りになってよかったな」
ハーシムの眉間に余計に皺が寄った。
「あ……」
何と言葉を返そうかと佐知子が戸惑っていると、ハーシムが続けた。
「だが。お前は知識も教養も所作も何もかも圧倒的に足りん。だから俺の信頼のおける者が教育する。勉強にはセロも加わる。そしてお前には今日から貴賓室で生活してもらう」
「え!?」
ハーシムの言葉にまたもや叫んでしまう佐知子。
「神の使いだからな、丁重にもてなさなければな」
ハーシムは馬鹿にしたように息を吐きだして笑った。
「……すみません」
軍の一部が自分を救うために動いたり、貴賓室を使わせて貰うことになったりと、面倒をかけたり、身分不相応な場所を使わせてもらったりすることになり、佐知子は正直理解が追いつかないが、ぽつりと謝り頭を下げた。
「今から護衛をしたいというヨウを連れて役人宿舎から荷物を持ってこい。今日で役場の仕事は終わりだ」
「え!?」
何度目かの佐知子の驚きの声が響いた。
「……何だ、拉致監禁されて教祖として崇められたいのか?」
「い、いいえ……すみません……引っ越しの準備してきます」
ハーシムの嫌味に事は一刻を争うのだな……と佐知子は察し、それでは失礼します。と、ヨウと一緒に会議室を出た。




