1 突然の終わり。
「今日もありがとね、サチコちゃん」
役場での仕事を始めて二週間ほどたった佐知子。
今日もアーサーとアーマ宿舎での仕事をし、帰り際にアーマの中年女性ににこにことほほえんでそう言われた。
「いいえ、何かあったらまた言ってくださいね」
佐知子は笑顔を返す。
アーマの人達に手を振られ、アーサーとアーマ宿舎を後にした。
「今日も仕事がはかどったねー」
「はい」
炎天下の下、歩いて二人は役場へと向かう。
この炎天下にはもう慣れている。
日差しはきついが湿度がないので、日本の夏に比べれば楽だ。
もう既に佐知子は日本の夏の暑さを忘れているくらいだ。
「あ、そういえばさ……サチコさん……」
「はい?」
隣を歩くアーサーが、何か言いづらそうに言おうとした時、
「サチコ……」
「うわ!!」
突然、背後から名前を呼ばれ佐知子は驚く。
しかも久しぶりに聞くこの声は……と、佐知子が振り返ると……そこには馬に乗ったヨウがいた。
「ヨ、ヨウ副長官! お疲れさまです!」
隣のアーサーも驚いて、なぜか敬礼しながら挨拶をしている。
「え……ヨウ? どうしたの?」
佐知子も突然のヨウの出現に呆然とする。
凄く久しぶりに会うような気がして……心が少し嬉しくなっていた。
ヨウはアーサーを馬上から、少し冷たい目で下から上まで見ると、
「……ああ」
と、真顔で返事をする。
そして佐知子に顔を向けた。
「今から会議があるから来てほしい……役場の仕事はもうしないようになってるから……」
ヨウにそう言われ、佐知子は驚く。
「え……これから役場の通訳の仕事だけど……しないようにって……」
「役場の仕事はもう終りだ……ハーシムさんからもう連絡がいってるから気にするな。早く馬に乗れ」
どこか不機嫌そうにヨウは自分の前をあけて手を差し出す。
「あ、えっと……」
戸惑って佐知子がアーサーを見ると、
「あ! 行ってください! 行ってください! 大丈夫です! 漆喰板は私が持って行きますので!」
なぜかアーサーはいつもと違う敬語で、佐知子の漆喰板を取り、さぁさぁと手で促した。
「……アーサーさん、ごめんなさい。ズハンさんに会ったらすみませんと伝えてください」
「うん! あ、はい! 大丈夫です! 伝えときます!」
アーサーは緊張して焦っているようだった。
ヨウがいるからかな……と、佐知子は早くその場を去ることにした。
「じゃあ……」
会議とは何だろう……と、疑問に思いながら、佐知子はヨウの手を取り馬に乗った。




