22 アドバイスと植物が好きな理由。
「……落ち着いた?」
ぬるくなったミント茶をグラスにそそぎながら、泣きやんだ佐知子にトトは問う。
「はい……すみません……愚痴って……大泣きして……」
「……お茶……飲んで」
いつもの低く静かな声で、トトはお茶を勧める。
佐知子は素直に一口飲むと、泣いた鼻や喉にミント茶はすっとして、気持ちよかった。
「人ってさ……」
するとトトが、木を仰ぎ見ながら話し出す。
「時にすごく残酷なことを平気でするんだよね……」
「…………」
黙って佐知子は聞いた。
「役人宿舎には俺もしばらくいたけど……あそこは確かに特殊な空間だから……陰口言われるだけで、いじめられないだけまだいいかもしれない……」
「…………」
弱音を吐いたことを責められているような気がして、佐知子は少しうつむく。
「人の根っこってさ……ドス黒くてどろどろしたもので……人間はとても綺麗な生き物なんかじゃないんだよね……きっと……」
少し衝撃のトトの言葉に、佐知子は思わず顔を上げる。
トトは変わらず木を見つめていた。
「いくら話し合っても分かり合えない人間もたくさんいるし……そういう時は、離れて関わり合わない様にするしかないんだよね……話し合えばわかるなら、戦は起こらないから……」
『戦』という言葉を含めた、その言葉の内容に、佐知子は戸惑う。
「でも……人には優しさもあって……同情や卑しい気持ちからの優しさに見せかけた物かもしれないけれど……そのおかげで命を救われたり色々助かったり……稀に本当の優しさを与えられたりする事もあったりするから……だから……なんて言えばいいのか分からないけれど……その人とも……上手くやっていければいいけど……やれないのなら……無理して上手く関わろうとしなくてもいいんじゃないかな……駄目なら駄目で……最低限の関わりで……いいんじゃないかな…………無理……しないでね」
トトは仰ぎ見ていた木から顔を戻し、薄っすらと、佐知子にほほえんだ。
「…………」
トトに言われた怒濤の言葉に、佐知子の頭は整理が追い付かなかった。
『人間は綺麗な生き物なんかじゃない』
『いくら話し合っても分かり合えない人はいる、だから戦だって起こる』
『でも、人には優しさがある。卑しい優しさと、本当の優しさ』
『上手くやれないのなら最低限の関わりで、無理しないで……』
頭の中で整理しながら、佐知子は一つ、トトに質問をした。
「トトさん……トトさんは、この世界から戦を失くすことは出来ると思いますか?」
突然の質問に面食らった表情をするトト。
そして真顔になってしばらく黙った後、
「……考えは個人の自由だけど……俺は…………無理だと思う……」
という言葉をそのままの表情で発した。
何となく、トトが何故こんなに植物が好きで、植物に囲まれて暮らしているのか、佐知子は少し分かった気がした。
「ありがとうございます」
佐知子は静かにほほえみ、お礼を伝えた。




