21 吐き出した愚痴とハンカチ。
「……君の世界のみんとてぃー? は、どういう物なの?」
すると真顔に戻ったトトが尋ねて来た。
「そうですね……ミントの葉をポットに入れて、お湯を注いだだけとか、そこにお砂糖入れたりとかかな?」
自分で淹れた事は、ほぼないので、佐知子はうろ覚えを説明する。
「葉の味や香りを純粋に楽しむんだね……今度やってみようかな……」
視線を斜め上へ上げ、少し考えながらトトは答える。
ピチチチと、鳥が鳴いた。
「……ここはいいですね……安らぎます……お茶頂いて正解でした……」
熱さの引いたグラスを両手で握って、さわさわと揺れる頭上の葉を見つめながら、佐知子は話す。
「役人宿舎じゃなくて……ここで暮らしたいな……」
「…………」
うっかり心情を言葉にしてしまった佐知子は、トトが無表情でじっと自分を見つめ黙っているのに気づくと、
「あ! すみません! あはは!」
焦りながら笑って誤魔化し、ミント茶を再度口にした。
「……なんか……あった?」
トトも静かにミント茶を一口、口に含む。
「…………」
話していいものかと、佐知子は悩む。
でも、もう限界だった。
(トトさんになら……いいかな)
何となくそう思って、佐知子は、静かに話し出す。
「えっと……まぁ、ハーシムさんからの試練だから……仕方ないんですけど……役人宿舎で……試験も受けずに入ってきて、どんな汚い手で入ってきた女なんだ。って噂されてたみたいで……私が広間に行くと静まり返ったり、ひそひそ陰口言われたり……」
今までの事を、一つ一つ言葉にする度に、佐知子の瞳に涙がにじんできた。
「しかも……同じ部屋の子には凄く嫌われてて……ほぼ口聞いてもらえなくて……見ないでとまで言われて……話し合おうとしたのに、話し合いもする気はないとか言われて……もうどうすればいいのか分からなくて……一応……自分の部屋なのに……リラックスも出来なくて……」
今まで我慢して我慢して、強気でこらえていた佐知子の糸が切れた。
涙は溢れ、うつむいた瞳からはぼたぼたと、ぎゅっと膝の上で握っていた手の甲に落ちる。
「確かに私は試験受けてないけど! 神様のずるい力使って皆のたくさん努力してきた場所にいるけど! そんなに妬まなくったっていいじゃないですか!! してることだって通訳しかしてないし! 重要な仕事してないし! 皆みたいに字も書けないし!! ちゃんとした仕事なんかしてなくて! 凄くも何ともないんですよ!? 話すのも拒否されたらどうすればいいんですか! 話せなかったら……分かり合うことも……何もできないじゃないですか……ずっとこのまま……うっ……ひっく」
佐知子は今までの思いを怒涛に吐き出し、両手を顔に当て、泣きじゃくった。
「……これ」
トトが差し出したのは、先ほど返したハンカチ。
「いいです……また洗って返さなきゃいけないから……」
涙を手で拭いながら佐知子が言うと、
「また……洗って返しに来て……薬草茶……みんとてぃー、出すから……」
「…………」
言葉の意味がよく分からずしばし真顔でぼろぼろと涙を流しながら考えた後、意味を理解した佐知子は、顔を歪ませながら、再度、泣きじゃくり、ハンカチを受け取った。
そしてずっと我慢していた涙を、我慢することなくあふれさせた……。




