15 トトの家へ。
水路の洗濯場に隣接してある共用ロープに洗濯物を干すと、トトのハンカチも含め、しばらく休憩していると洗濯物はすべて乾いた。
籠に入れて役人宿舎に戻り洗濯物を畳んでいた佐知子だが、トトのハンカチは力をかけて折りたたんだが、どうしてもアイロンがない為、皺になってしまう。
仕方ないか……と、思いつつ、佐知子はまた明日も休みなので、明日の朝トトへハンカチを返しに行くことにした。
翌日、とりあえず一番綺麗な襟と袖に色とりどりの刺繍の入ったカンラを着て、皮の仕事用のカバンにハンカチを入れると、佐知子は皮のサンダルを履いて役人宿舎を出た。
(わー……久しぶり……)
病院に来ればいるかな。と、佐知子は思い病院へとやってきた。
病院の大きな鉄の扉の前に立ち、懐かしさを感じながら重い扉を開く。
「すみません、トトさ……トト薬師長……いらっしゃいますか?」
受付にいた初老のアラブ系の女性に佐知子は問う。
「トト薬師長? 今日はお休みよ」
しかし、返ってきたのは期待外れの言葉だった。
「お休み……」
「ええ」
どうしよう……と、佐知子は考える。
役場の休みも軍用地の炊事係の仕事と同じく、木曜と金曜だった。
(トトさんも木金は休みなのかな……? だとしたら、病院では会えないな……いやでも……)
と、しばし考えた佐知子は、
「あの、トトさ……薬師長って、お休みいつも木曜と金曜なんですか?」
返ってきた答えは、
「ええ、そうね」
佐知子はがっくりと肩を落とした。
(どうしよう……これは……家に行くしかないんじゃないかな……)
そう思い、しばし悩んだ後、
「あの……トト薬師長の家って、ご存じですか?」
恐る恐る佐知子は聞いてみた。
「一区よ」
さらりと受付の女性から返事が返ってきた。
個人情報保護という観念はこの村にはあまりないのかもしれない……と、佐知子は思う。
「一区のどの辺りですかね……私、一区あまり行ったことなくて……」
詳細を聞こうとすると、
「歩いてる人に聞けばたどり着けるわ。有名だから」
受付の女性は、なぜか少しおかしそうに笑っている。
「あ……そうですか……」
アイシャさんの時といい、人情味溢れるたどり着き方だなぁと、佐知子は思う。
しかし、この村はそういう場所だ。役人宿舎に慣れて少し忘れていた。
優しい温かい世界。
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言うと、佐知子は駆け出した。




