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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第四章

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13 話し合うことも出来ないならば。

「はー……疲れた……」


 役人宿舎に帰宅して、ちらちらと見られながらも、アーサーから理由は聞いたので仕方ないよな。と、思いながら部屋に帰ってきた佐知子は、カバンを机の上に置き、イスに座ると机に両腕を置き、ぐったりと突っ伏した。


 初出勤はようやく終わった。


(軍用地の炊事係の仕事も初日は疲れたけど、なんでも初日は疲れるもんだなぁ……でも、役場の仕事は何か精神的に疲れる……)


 佐知子が机でぐだぐだとしていると、ギィと重い鉄の扉が開く音がした。

 見ると、カジャールが帰ってきた。


「……おかえりなさい」


 もう理由はわかっているので、小さな声で佐知子が挨拶するが、


「…………」


(無視か!)


 扉を閉めてカジャールは自分の机のランプをつけカバンを置き、整理を始めた。


「…………」


(理由はわかってるけど、そんなにガン無視しなくってもいいじゃん……ムカつくのはわかるけどさ……)


 それでも佐知子は話しかけようかどうかと迷う。


「あんまり見ないでくれる」

「!」


 するとそんな事を言われた。


「あのさぁ! あたしのことムカつくのはわかるけど、そんなこと言わなくてもいいじゃん! ていうか、態度酷過ぎない? 確かに皆、必死に役人になったのに、私は試験も受けないで役人みたいなことしてるけど、お手伝いみたいなものだし!」


 初出勤の疲れのせいで、いつもなら黙っていた佐知子だが、あまりにもなカジャールの態度に立ち上がり声を荒げた。


 この世界に来て、こんなに人に怒鳴ったのは初めてだ。

 すると、カジャールの手が止まる。


「……その『お手伝いみたいなもの』に、簡単になれてよかったわね。どんな手使ったのか知らないけれど、私たちがどんな思いして、泥水すすってここまで這い上がって来たのかも知らないで」

「!」


 少し黙ったあと、冷静な声でカジャールは静かに正面を向いて言う。


「私はあなたの過去を知らないけれど、あなたも私の過去を知らないでしょ? 知ったら少しは腹立たしさもおさまるかもしれないけれど、知る気もないし、話す気もないわ」


 そう言うと、カジャールは静かに部屋を出て行った……。


「話さなきゃ……分かり合えないじゃん!」


 机の上のカバンを閉められた扉へ投げて、佐知子は大声で叫んだ。


 話す気もないほど嫌われているのかと、佐知子は悲しくなったし、怒りもわいた……。


 話せばわかる。という言葉もあるが、話し合ってくれないのなら、どうすればいいのか……学校ではどうだったっけ……と考えながら、佐知子は虚しく扉の方へと落ちたカバンを拾いに行ったのだった。

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