12 初めての日報。
(日報……)
「日報書ける? ここに日付書いて、今日のしたこと書くの。アズラク語でね」
パピスをしばし見つめていると、隣からズハンが教えてくれた。
日報はたくさんのパピスを厚紙のような物で挟んで草の繊維の紐で綴じたものだった。
「あ、あの……見本見せてもらってもいいですか?」
何となく不安で、佐知子はズハンのを見せてもらおうとした。
「いいわよ」
快諾して、分厚い草の繊維の紐で綴じられた日報を渡すズハン。
「ありがとうございます」
受け取ると佐知子は中を見る。
そこには一ページに一日分の日報がびっしりと書かれていた。
(うわ……分かんない言葉ばっかり)
しかし、何とか理解しようと佐知子は読んで行く。
(日付はここにこう書いて、箇条書きでいいのね……うん、わかった。私なりに書いてみよう)
読ませて貰って良かった。と、佐知子はズハンの日報を閉じた。
「ありがとうございます。あの……漆喰板に試し書きしたのを見てもらって、大丈夫ならパピスに書いてダメなら代筆してもらってもいいですか?」
自信がなくて、ズハンにそんな提案をする。
「いいわよ」
忙しそうにしながらも、ズハンは快諾してくれた。
「ありがとございます!」
床に重ねてある漆喰板を取り、佐知子はそこにたどたどしいアズラク語で今日の日報の内容を書いていく。
『六百三十二年十一月九日。
五時~十二時 役場にて難民の通訳。
十四時~十六時 アーマ宿舎にて健康状態確認、要望、相談を受ける。
十六時~終業 役場にて難民の通訳』
「あの……これでどうでしょうか……」
どきどきとしながら、佐知子は漆喰板を見せる。
「……んー、もうちょっと具体的な例がほしいわね。アーマ宿舎での出来事とか要望とか書いたら? 何かあったでしょ?」
ズハンに指摘を受ける。
「あ、はい! ありました! 書きます!」
下書きしてよかった……おそらく貴重なパピスが無駄にならずにすんだ……と、佐知子はもう一枚、漆喰板を取ろうとする。
「ていうか、貴女たどたどしいけど文字書けるじゃない。代筆の必要ないわね。ただ、簡単な言葉が多いから、難しい言葉勉強してね」
「はい!」
ズハンは基本的には優しいが、先ほどから遠慮なくズバズバといってくる。
国事部の人は厳しいな……アーサーさんは別だけど。と、佐知子は手を動かした。




