11 残酷な現実と自分の仕事。
その後、アーマ宿舎での仕事を終えた佐知子は、アーサーと別れ、その足で役場へと向かう。
時刻は十六時になりそうだった。
役場の難民課に着くと、ズハンが一人で窓口の難民と身振り手振りで必死に意志疎通をはかろうとしていた。
しかし、佐知子の姿を見つけると、
「サチコ! やっと戻ってきた! 早く手伝って!」
役場に相応しくない叫ぶような大きい声を発した。
「あ、はい!」
慌てて佐知子は窓口の中へと入ると、通訳の仕事を休む間もなく再開した。
そして通訳の仕事を次々とこなしていると……建物の中のため、少し音の小さい日没の鐘が聞こえた。
「はい! 今日はこの方で終了です! 明日また来てください! はい! 訳して!」
「え……」
(まだたくさん難民の人いるのに……)
佐知子が躊躇っていると、
「ほら! 仕事がつっかえるから早く!」
と、急かされた。
「はい! あの、今日は終了です! また明日来てください!」
後ろにも聞こえるように、大声で佐知子は叫んだ。
「ええー! そんな! 困るわよ!!」
「そうだ!! 今日の寝床ないんだぞ!!」
そんな反論が返ってくる。
「……今日の寝床なくて困るとか言われてるんですが……」
困った表情で佐知子がズハンに問うと、
「いつものことよ。無視無視! もうすぐ入口にいる軍兵が追い出しにくるから大丈夫!」
「え……」
(そんな……酷い……でも、ずっと対応してたらキリないし……しかたないのかなぁ……)
ブーイングする難民の人達を見ていると、本当に軍兵達が追い出しにやってきた。
「すみません! 今日、一晩なんとかしのいでください! 明日また来てください!」
軍兵達が難民達を追い出すのを見ながら、佐知子は叫ぶ。
「おい! 何だ! 触るな!!」
「ちょっと!」
佐知子は複雑な心境でその光景を見つめる。
「……あの人たち……今夜一晩どうするんでしょうか」
「さぁね。まぁ、ここまで野宿したりして来てだろうから何とかするわよ。さ、日報書いて私たちも上がるわよ。あなた字書けないんだっけ?」
「え、あ! 少しだけ書けます……」
軍兵に追い出される難民を尻目に、佐知子は自分の仕事のことを言われ、罪悪感を胸に抱えながらも、自分の仕事に向き合うことにした。




