8 見てこなかったこと。
「サチコ! 君が来てくれて助かったよ!! これで色々相談できる! 今までずっと我慢してたから! 実はずっと右足の付け根が痛いんだ。そこまで痛くないから言葉も通じないし黙って作業してたんだけど……でも、病院に行きたいと思ってて……」
アーマのアフリカ系中年男性は、佐知子を見て瞳を輝かせ、今まで我慢していた身体の不調を話した。
「はい! 伝えますね」
(言葉が通じないと、病院無料なのに行けなくて働かなきゃいけないのか……大変だな……)
幼いヨウに、ぶどうを貰ったお陰で言葉が通じるようになった佐知子は、心の底からほっとした。
それと同時に、アーマの人々……難民の人々に対して同情した。
思えば元の世界、地球でも難民の話題をテレビでたまに目にしていた。
しかし佐知子はテレビをチラ見するだけで、すぐに頭から消してしまっていた。
自分とは関わりのないことだと思っていた。
(こんな状態の人達が……地球にもたくさんいたん……いや、今もいるんだよなぁ……)
佐知子は複雑な気持ちになった。
知らないことは恐ろしい。
知らないことは罪だと思った。
情報が入ってこないから仕方ないと言えばそうかもしれない。
だけど、少し視界を広く向ければ入ってきたはずだ。
自分がいかに豊かな国で、平和に暮らして、何も見ずに聞かずにのうのうと暮らしてきたのかを痛感する。
自分が情けなくなった。
情けない……と言うか、恥ずかしい。
そして何故か悲しい……涙が出てきそうだった。
(いつ戻れるかわからないけど、戻ったら……とりあえず寄付とかしよう……)
今すぐ自分が出来ることを考え、佐知子はそう思った。
「あの……サチコ……さん?」
俯いて黙り込んでいる佐知子に、どうしたのかとアーサーが声をかける。
佐知子は慌てて顔を上げ、滲んで来た涙を拭いて笑顔を作った。
「何でもないです! すみません!」




