7 納得の理由。
「みなさん、こんにちはー」
アーサーが、アーマ宿舎の男性階へと階段を上り、アズラク語でアーマの人々に声をかける。
佐知子はアーサーの荷物を持ちながら後に続いて、こんにちは。と挨拶をした。
すると、
「サチコ! サチコじゃないか!」
「お嬢ちゃん! またきてくれたのか!」
わっと男性達は佐知子の方へと集まって来た。
「あ、皆さん、こんにちは。今日から国事部で働くことになって、アーサーさんの補佐係になりました。何かあったら通訳しますので言ってください。よろしくお願いします」
迫り来る人々に後退りしながらも、佐知子はほほえんだ。
「おお! 本当か!」
「やったぞ!!」
皆、喜んでいた。佐知子が苦笑していると、
「……君、今、アズラク語で話してたよね?」
「え?」
きょとんとした表情でアーサーが佐知子に声をかけてきた。
「何で皆さんに通じてるの? 皆さんバラバラの言葉で話してたのに……え、あ、うわぁ……凄い……そういうことか……噂、本当だったんだ……」
驚愕の表情をするアーサー。
「これは試験も受けないで特別に役場で働けるはずだよ……」
アーサーは口を押さえながら溜息交じりに呟いた。
「え……それはどういう……」
アーサーの言葉に疑問を覚え、佐知子は問いかける。
「いやー……役人ってさ、皆、難関の書記試験受けてやっとなるのに、いきなりポンって君が来たから役人宿舎で色々噂になってたんだ……ハーシム長官、色仕掛けで……とか……賄賂とか……でも、多言語話せるとか……何か不思議な力持ってるとか……色々」
「ああー……」
その言葉に佐知子はようやく役人宿舎での皆の態度に納得した。
そしてカジャールの態度にも納得がいった……。
引っ越してきた時に言われた言葉もそういうことか……と、佐知子が少し暗い顔をしていると、
「でも……本当に不思議だよね、多言語話せるっていうより魔術みたいな……」
その言葉に、佐知子はドキリとする。
「ま、まぁ! そんな事よりお仕事しましょう! 四時迄ですし!」
「あ、うん」
魔術という言葉を聞き佐知子は少し焦った。
何か魔女狩りのような、危険人物として扱われないかと。
確かに多分、神様から力を貸してもらった人知を超えた力なのだが……。
「えーっと、まずは一人ずつ健康状態を聞いていくよ。あと様子見。具合悪そうじゃないかとか、体に斑点とか疫病みたいな異常がないか軽く見ながら。まぁ、今までかなり大変だったんだけどね、言葉通じなかったから。やってるようでやってなかったようなもんで。で、その後は何か要望がある人は来て下さいって話聞いてたんだけど、それも身振り手振りと簡単なアズラク語で話してて……君が来たからだいぶ楽になりそうだね。じゃあ、あっちの端から行こうか」
アーサーは佐知子に説明をすると、左側の区切られた部屋代わりのスペースを指差した。
「こんにちは、国事部の者です。体調は悪くはないですか?……って、訳してもらえる?」
アーサーは優しい人だった。アーマの人々にも差別をせず、優しい笑顔と態度で接する。
「はい! こんにちは、国事部の者です。体調は悪くないですか?」
そんなアーサーの力になろうと、佐知子は思った。




