5 簡単だけど辛い仕事。
仕事は簡単と言えば簡単な仕事だった。
ただ難民の話している事をズハンに伝えればいいだけだ。
ただ……
「あんた何で俺の故郷の言葉がわかるんだ! なんてこった! ああ、懐かしい!」
(またか……)
毎度毎度これである。
「あの……落ち着いてください……お話は後で聞きますので、とりあえず手続きを……」
そして毎回、佐知子は宥めようとするのだが……
「なぁ! 聞いてくれよ! ここまで大変だったんだ!!」
毎度毎度これである……皆、ここまでの苦労を涙ながらに話したがるのである……。
「あ、あの……」
「何て言ってるの?」
ため息交じりにズハンにそう問われ、
「えっと……」
「どうせさっきと同じ、ここまでの苦労話でしょ?」
そうズハンにまたかと呆れられる。
「あはは……」
佐知子は苦笑いするしかなかった。
そんな調子で来る人来る人、時には涙を流しながら、怒り叫びながら、佐知子に身の上話をしてくる。
「妻も子も途中で病気で死んでな……俺だけ生き残っちまった……この村は俺らみたいのを受け入れてくれるっていうから来たんだが……言葉が通じなきゃ何もできねぇ。とりあえずここに行けと言われた気がしたから来たんだが……」
男は悔しそうに泣き、涙を拭う。
「…………」
薄汚れた、髪も髭も伸びた男を佐知子は見つめる。
そして優しく微笑んだ。
「はい、大丈夫です。ここでは食事も住む場所も提供できます。安心してください」
その言葉に男は顔を上げ、唖然とした表情をする。
「本当か? ありがとう! ありがとう!!」
男は佐知子の手を取り、おんおんと泣いた。
男の手は汚れてガサガサだった……佐知子の表情はふっと暗くなる。
先程少し聞いたが、この人はどんな壮絶な場面をくぐり抜け、ここまでやってきたのだろう……と。
「ちょっと! 通訳して!」
「あ! はい!」
佐知子は慌ててズハンに通訳する。そしてその難民への説明が終わると、次の難民へと続く。
「次の方ー!」
と、佐知子が呼ぶと、
「あなたどうしてザンベル語が話せるの!?」
案の定、今回も女性が驚きの表情で窓口に身を乗り出してきた……。
「あはは……」
苦笑いして佐知子は同じ言葉を繰り返すのだった。




