3 ズハンとの再会。
役場の入口の前でズハンを待つ佐知子。
四時四十五分との約束だったがポケットから懐中時計を出すと、時刻は四時半だった。
よし! と、佐知子は思う。なんとも日本人らしい感覚だ。
しかし入口の前で待っていると、またもや見世物パンダ状態が始まった。
役場に入って行く役人達がチラチラと佐知子を見るのだ。
気のせいかな? と、思った佐知子だが、とある役人女性が他の役人女性に近寄り、佐知子を見ながらヒソヒソと話していたので、あーこれは……またか。と佐知子は確信した。
(ズハンさん早くきて~!)
ぎゅっと、見なければ存在しない! と目を瞑りながら、昼と夜の寒暖差が激しいアスワド村のまだ寒い朝の中、支給されたカンラと靴、そしてポケットには懐中時計。髪には餞別の髪留めに革のカバンの出で立ちで、佐知子はそこに立っていた。
思わず服の下にあるアフマドの指輪を服の上から握ってしまう。
すると、
「あー、あなた久しぶりー」
という声が聞こえ、佐知子はパッと下げていた顔を上げた。
そこには極東アジア系の……昔の中国風の、髪を一つのお団子にした五十代くらいの少しふくよかな女性がいた。
そう、その女性はノーラをアーマ宿舎へ入れる手続きをする際に難民課で会った、あの女性だ。
「ズハンさん! お久しぶりです!」
佐知子はお辞儀をして挨拶をする。
「随分、早いのねー。いいのよー、四十五分ちょうどで」
にこやかに笑いながらズハンは近づいてくる。
(よかった……ズハンさんは好意的だ……)
佐知子はほっとする。
「あの……私が以前通訳した後、怒られたって聞いて……すみませんでした」
佐知子は今度は謝罪の為、頭を下げた。
「え? ああ~、いいのよ。気にしないで。あの日はアーサーつかまえて愚痴ったから! それより今日からあなたと一緒なら仕事が楽になりそうだわー。まぁ、周りの目が気になるけど」
私も何か言われないといいけど……まぁいっか。などと言いながら、ズハンは佐知子に、
「さ、じゃあ、役場に入りましょうか」
と、促した。
「はい……」
ズハンの言葉に色々と申し訳なく思い、少し俯きながら佐知子は返事をした。




