2 夜明けの一歩。
負けない。と、思いながら階段を下り広間に着くとやはり注目を浴びた。
まだ夜が明けきらないオレンジ色のランプの中、階段を下りて来た佐知子に視線が集まり、元々静かな広間が、しんっ……と静まり返る。
しかし今日も同じように、皆は、ぱっと顔をそむけ、チラチラ、ヒソヒソと佐知子の方を見ては話している。
気になるが……気にしない。佐知子はそう心に決め、平静を装い、食事を貰いに炊事場のカウンターへ向かった。
「おはようございます。すみません、朝食を……」
「ん」
ガシャン! と、置かれた朝食に既に心が折れそうになるが、瞳を閉じて息吸い、心をなんとか持ちなおす。
「……ありがとうございます……」
佐知子はお礼をいうとプレートを受け取り、また昨日と同じ場所へと、広間の左隅を見た。
空いていたそこに行き座ると、少しほっとする。
しかし顔を上げるとこっちを見ていた人達がぱっと顔をそらす。
一体これは何なのだ! と、佐知子はまたもや怒りがわいてきた。
(もう知らない!)
そう思うとフォークを掴み朝食を食べはじめた。
役人宿舎の食事が美味しいのが今の佐知子にとって唯一の救いだった。
(あー、おいし!)
食事に集中した後、綺麗に食べ切ったプレートを返却場所へ持っていく。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
「…………」
佐知子がそう言うと炊事係の中年女性は少し驚いた表情で佐知子を見た。
「?」
何だろう? と、思いながらも、女性はプレートを持ち奥へと消えた。
歯を磨こうと佐知子は階段へと向かう。
相変わらず、人の視線やヒソヒソ声はあるがもう大分、慣れて来た……というのは強がりで、怒りが勝っているので気にしないようにしていた。
歯を磨き、荷物を纏め、もうほぼ誰もいない広間を通り、いってきます。と、門番の老人に声をかけると、門番の老人も少し驚いた表情をしたがにこやかに手を上げて、いってらっしゃい。と、返してくれた。
佐知子は重い鉄の扉を開いた。
夜が明けたばかりの眩しいオレンジ色の太陽と、夜空の濃紺のグラデーションの美しい空に、佐知子は息をのむ。
(今日からだ……今日から、頑張ろう!)
佐知子は役場へと続く道を、一歩、踏み出した。




