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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第三章

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202/267

19 第一歩。

 階段を下り広間に着くと、もう大分、人が少なくなっていた。


 最初から静かだったが、またもや佐知子を見て更に広間は静まり返り、ひそひそ話を始める国事部の人々。


(……負けない)


 ぐっと顔を上げて、佐知子は何でもないかの様に食事を取りに行く。


「あの子が……」

「へー、あれが……」


 声が聞こえてくる。

 だから何なのだ! と、佐知子は思いながらも、平静を装い炊事係の中年女性に昼食を下さい。と言うと、中年の女性は人相が悪いというか無愛想で、用意されていたワンプレートの銀の皿をガシャンとレンガの台越しに置き行ってしまった。


「…………」


(うちらあんなんじゃなかったよね!? 役人宿舎は炊事係の人も酷いの!? それともあたしだから!?)


 段々、悲しさよりも腹が立ってきた佐知子。

 少しドスドスと歩きながらむっとして、空いている場所、出来れば隅が良い。と探し、玄関から入って左隅に開いている場所を見つけたのでそこに座った。


「はぁ……」


 ため息を吐く。

 しかしハッとした。


(だめだめ! これは課題! テスト! 試練! ご飯を食べよう!)


 佐知子は食事へと意識を向けた。


「うわぁ……」


 それは、今まで炊事係の佐知子が食べていた食事よりも格段に豪華な食事で、鶏肉のソテーと、ナンのようなパンと、サラダに、デザートまでついている……しかもシャイは飲み放題……。


(待遇いいな……国事部の人って……)


 そう思いながら食事を食べようとして、ふと視線を感じて手を止め顔を上げた。

 佐知子をそっと観察していたらしいその場にいた人々がサッと顔をそらす。


(私は動物園のパンダですか……)


 部屋で食べたい……と、思ったがそうもいかない。視線を気にしつつ、早く食べてしまおうと、急いで食事を終わらせた。


 いつぞや買った皮の水筒に水を入れると、さっさと部屋へと戻る佐知子。


(この後何しよう……片付け終わったし……あとは夕飯食べてハンム行って明日の支度して寝るだけなんだよね……あ、もう一度予定確認しとこ)



 部屋に戻るとアイシャの音読をメモしたノートを広げた。


(朝食二時から四時半まで……二時!? 朝の二時!? 夜中だよ……食べる人いるの……? で、昼食が十二時から二時まで、夜は七時から九時までで、門限……門限が二十三時か……十一時)


 窓を開け、風にあたりながらイスに座り机に頬杖をついてノートをパラパラとめくる。


(で、明日からの仕事がー……四時四十五分に役場の入口でズハンさんと待ち合わせか……ズハンさんに謝らないとなー……。で、五時から十二時まで仕事で、二時までご飯か……相変わらずラテンの国みたいにのんびりだなぁ……)


 心の中で突っ込みを入れる。


(二時から四時までアーマ宿舎訪問……そうだ! アーマ宿舎行けるんだ! ノーラさんに会える! で、四時から日没までまた役場で仕事……か)


 佐知子はノートを閉じた。


 心地良い風が吹いてきたので窓の外を見る。静かだった。

 窓の外からも部屋の中からも、何の音もしない。たまに遠くから何かの音が遠く遠く聞こえるだけ。

 佐知子は息を吐く。


(明日から四時四十五分出勤かー! 早いなー! 何時に起きればいいんだろ! 目覚まし時計あってよかったー!)


 机に顔を突っ伏して心の中で叫ぶ。


 心は不安で一杯だ。

 役人宿舎の洗礼も受けた。この課題はかなり厳しいものになるだろう……だが、自分で選んだ道。

 アフマドや今まで亡くなった人達の命を無駄にしないように、あのギドのある丘でヨウと決めた、外交官になってこの世界から戦争を、戦をなくそうという道のりの第一歩。


「頑張ろう!」


佐知子は顔を上げ、両手を上げ、大きな声で叫んだのだった。

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