2-1 マホウノウデワ。
フリーマーケット会場はこの炎天下にも関わらず賑わっていた。
(あ、あのグラス可愛い! あ、あのアクセサリーも!)
さっきまでの気分とは打って変わり、フリーマーケットの賑やかさと色々な物が視界に入る刺激に、佐知子が少しウキウキと心を弾ませ歩いていると、ある銀食器などを乱雑に並べた周りとは一風変わった店を見つけた。
「…………」
その場で足を止め、店の主人を見る。
「オウ! カワイイオジョウサン! ヤスクスルヨ! ナンカカッテカッテ!」
主人は片言しゃべりのアラブ系かと思われる褐色肌の中年男性だった。
その男性は白いワンピースのような服装に、茶色い夏用のニット帽、そして黒いサングラスに黒いヒゲをたくわえた、日本ではあまり見ない風貌だった。
「…………」
その場を去ろうかとも思った佐知子だが、商品を見ると惹かれるものがある。
銀をベースにした素材に、色とりどりの綺麗なガラスや石が散りばめられている。
それはとても綺麗で、非日常を求めている佐知子を魅了するには三秒もかからなかった。
佐知子は少し笑顔になりながら瞳を輝かせ、店先にしゃがみ込む。
「オジョウサン! トテモカワイイネ! カワイイカラトッテオキノ、ダシチャウヨ!」
「え?」
佐知子が商品を見ていると、店の主人はガサガサと脇に置いていたビニール袋から何かを取り出す……
「コレ! コレ、ネガイガカナウ、マホウノウデワ! ツケタラ、キットネガイゴトカナウヨ!」
「…………」
ずいっと佐知子の目の前に出されたのは、銀色の少し幅のある腕輪だった。
五センチメートル程の幅の腕輪は、中央に真っ青な吸い込まれるほど綺麗な青い石が埋め込まれている。そしてその石の四方には、アラビア文字に似た佐知子には読めない文字で何かが書かれていた。
「…………」
これはもう非日常を求めている佐知子を魅了するには十分すぎるものだった。
「買います!」
表情を輝かせて主人を見て答える佐知子。
「オー! オジョウサン! オメガタカイ!」
主人も上機嫌になる。
「いくらですか?」
佐知子が聞くと、
「ゴセンエン」
主人は手の平と白い歯をニッと見せて笑う。
「ぐっ……」
佐知子の顔が歪む、五千円は佐知子には痛い出費だ。
「さ、三千円に……」
「ノーノー! ダメダメ! コレハトテモキチョウナモノ! ……ヨンセンゴヒャクエン」
貴重な物なのに値下げしてるじゃん! と、佐知子は思いながらも値下げ交渉をしていく。
「三千五百円で!」
「ヨンセンゴヒャクエン!」
「じゃあ、四千円!」
「……オーケー! オジョウサン! カワイイカラ、トクベツヨ!」
ハッハー! と笑う主人をよそに、佐知子は財布を開けながら名残惜しそうにお札とお別れをした。




