14 二区のアイシャの家。
「すみません、二区のアイシャさんの家はどこか知っていますか?」
中流と下級市民が混在して住む地区、二区に来ると、道端に座っている老人に佐知子は声をかけた。
「二区のアイシャかい? そこの角を曲がって、二、三軒先の家だよ……」
震える指先で老人は教えてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言い、佐知子は走る。
そう、佐知子は思い出したのだ。軍用地の外に住んでいて何かあったら二区のアイシャって言って訪ねておいで。と言ってくれたアイシャの言葉を。
(アイシャさん昼番だから今の時間じゃいないかもなー。でも、いなかったら待ってよ! 夕方には帰ってくるかもしれないし!)
それか一度、宿舎に戻って荷物片付けて夕方に……と、考えながら角を曲がり歩いていたが、二区に入ってから圧倒されていた光景を改めて見つめる。
密集しているレンガの家々は、青というか、すべて濃い水色に塗られているのだ。
アパートのような集合住宅のような建物もあり、アーチ状の橋もあったのだが、それもすべて水色に塗られていた。
綺麗な青の世界にわくわくしながら歩く佐知子。
「あ、ここか……な?」
すると佐知子は『アイシャ・アフマド』と、小さな鉄板にアズラク語で刻まれた鉄の扉を見つける。
おそらくここがアイシャの家だろう。と、思いながら『アフマド』という名に、佐知子は切なくなる。
(アイシャさん……表札そのままにしてるんだな……)
そうだよね……と思いなおし、しゅんとした表情を深呼吸をして、いつもの表情に戻すと、表札の下のドアノッカーで、カンカン! と扉を叩く。
どうかいますように……と祈りながらしばし待つ……。
すると、扉にある格子付きの小さな窓がカシャンと開いた。
そこに現れたのはアイシャの瞳だった。
佐知子は少しびっくりする。
「サチコ! どうしたんだい!? 今、開けるからまっておいで!」
「あ、すみません!」
よかった! いた! と、佐知子は安堵する。ガチャガチャと鍵が開かれ、扉が開いた。
「アイシャさん!」
「どーしたんだい! こんなところまで!」
佐知子が見慣れないカンラ姿のアイシャは、驚いている。
「すごいですね! 二区のアイシャさんの家はどこですか? って聞いたら本当に来れました!」
佐知子は微笑む。
「一人で来たのかい? ヨウは? まぁ、中へお入りよ!」
「あ、ありがとうございます! お邪魔します!」
よかったー、アイシャさんいたー! と、佐知子はアイシャの家の中へと入るのだった。




