7 お開き。
佐知子の涙がおさまり、別れの餞別を赤い巾着に入れ確かに受け取るのを見届けると、アイシャはジュースを一気に飲み干し、じゃあね! と颯爽と去って行った。
ありがとうございました! お世話になりました! と、巾着を胸に立ち上がり佐知子は頭を下げた。
そしてイスに座り残っていた涙を拭うと、隣で話を聞いていたメリルが、
「あとで革紐あげるね、余ってるのあったから」
そっと笑顔で伝えてくれた。
「ありがとうございます! メリルさん大好きー!」
酔っぱらっていないはずなのだが、佐知子はメリルのさり気ない優しさに先程の事もあり感極まり肩に軽く抱きつく。
「もー、酔っ払らってるのー? ジュースで」
クスクスとメリルは笑う。
「あたしはー! あたしのことは好きじゃないのー!? サチー!」
すると、ドスン! と背中に衝撃を受け佐知子は振り返った。
「サチー!」
べろんべろんに酔ったライラが泣きながら背中に抱きついている。
これは……一体どうしたら……と、佐知子は思いつつも、
「ライラも好きだよー!」
と言いながら肩を叩いてみる。
「どれくらい好きー?」
え……と、佐知子は困る。
「こらこら、ライラ」
メリルが間に入ってくれるも、おんおんと泣きながらライラはぎゅっと抱き着いてくる。
「はいはーい! みんな! そろそろお開きだよー!」
そんな時、タイミングよくサリーマがカウンターの前に立ち手を叩いた。
もう飲み過ぎてつぶれている者や、うつらうつらしている者、料理も大方なくなり、それを見計らっていた。
「ほら! ライラ! 終わりだって! しっかり!」
佐知子がそう声をかけると、ライラは、
「まだ終わりたくないー!」
と叫んだ。
その声は少し静まり返った店内によく響いた。
「ライラ! いい加減にしな! 悪酔いは出禁にするよ!」
サリーマが一喝すると、ピッとライラは佐知子から離れ姿勢を正した。佐知子はサリーマをごくりと見る。
「楽しい時間も、もう終わりだ……明日、サチはうちらとは違う世界に旅立つ……」
しんっ……と静まり返った店内で、サリーマはそんな事を語りだした。
「そんなサチに、あたしたちから餞別だ。サチ、こっちおいで」
佐知子は急いで向かった。




