2 初めての乗馬と密着度。
「よし! じゃあ、その話も終わった所で本題! さっきも話したんだけど、私なんか神様に無茶なお願いされちゃって……何かこれから起こる大戦争回避しろって言われちゃったんだけど、私にそんなこと出来るとも思わないし……で、とりあえずこっちの世界でしばらく暮らそうと思うんだけど、住む場所と仕事何とかなる場所知らないかな? 出来れば紹介してほしんだけど……お願い出来る?」
両手を合わせて佐知子は頼む。
「…………」
ヨウはその話を聞くとしばし顎に手を当て考える。その横顔は控えめに言っても魅力的だった。
(かっこいい……かっこよく育ったなぁ……ヨウくん)
呑気に佐知子はそんなことを思う。
「わかった。とりあえず会わせたい人がいる。行こう……サチコ」
「え」
突然、名前を呼び捨てで呼ばれ、少しドキっとする佐知子。
様付けはしなくていいと言ったが、いきなり呼び捨てとは……まぁ、いいが。と思いながら、歩き出し、近くの木に繋いでいた馬に乗ろうとするヨウを追いかけた。
「馬には乗れ……るか……?」
黒い艶やかな毛並みが美しい馬の側に立ったヨウが、佐知子にまだぎこちなく問う。
「あー……乗ったことない」
「俺が引っ張り上げるから、鐙に足をかけ……ろ」
「わかった」
間近で見る馬は圧巻だった。
まず大きさ。馬ってこんなに大きかったんだ……と、佐知子は思う。
そして艶やかな毛並み。とても綺麗だった。触りたくなるが、馬はとてもデリケートな生き物だと聞いたことがあるので、やめておいた。
臭いは少ししたが仕方ないだろう、動物だ。
だが、馬具はとても綺麗だった。革は綺麗に光っていて、刺繍などはとても綺麗で細やかだった。とても丁寧に手入れしているのがわかった。
きょろきょろと馬や馬具などを物珍しく見ていると、いつの間にかヨウが馬に乗っていた。少し馬が揺れる。
「ほら、足を鐙にかけて、手を……貸せ」
ヨウが馬上から手を差し出してきた。とても大きな手だった。
褐色の肌にゴツゴツとして、硬くなった肉刺などもある。
だが、長くて無骨さもあるが綺麗さも兼ね備えている。
そして、立派な男性の手をしていた。
(本当にあの小さなヨウくんなのかな……)
佐知子はつい疑ってしまいながら、リュックを前にかけ鐙に足をかけると、ヨウの手を握った。
「うわっ!」
その瞬間、物凄い力で引っ張られ佐知子はバランスを崩してしまい、どうなるかわからず思わず目を瞑って肩に力を入れた。
「あ……すまない……」
しかし心配は無用だった。
バランスを崩した佐知子を、ヨウががっちりと馬上で受け止めた。
「…………」
佐知子はヨウに抱きしめられる形になっていた。
ヨウの硬い胸板が、薄い布越しにはっきりとわかった。
それと同時にヨウからは、どこかスパイシーでエキゾチックなとてもいい香りがした。
「ああ! ご、ごめんね!」
慌てて佐知子は離れようとする、
「うわ! わ!」
「ああ!」
だがバランスを崩して、落ちそうになってしまう。
「ま、待て待て、落ち着け。まず、右足を右側へ……」
「う、うん……」
ヨウの誘導で、落ち着きながら馬上で体勢を整える。
「大丈夫か……?」
「はー……何とか」
ようやくヨウの前に佐知子が座る形で落ち着くと、二人はホッと息を吐いた。
(それにしても……ちゃんと座っても密着度が高い……)
佐知子はドキドキとする心臓を抑えられなかった。
相変わらずヨウからはいい香りが漂ってくる。
相手はあの小さなヨウくんだと思っていたが、もうすっかり大人だ。男の人だ、行動を色々改めなくては。と、思い、チラッと顔を上げると、頭上から薄い布が降ってきた。
「うわっ!! え!? 何!?」
「……これを頭から被っていてくれ……足までな」
「え? 何で?」
何故と問いながらも頭から薄い水色の布を被り、顔を上げた佐知子にヨウは言葉を詰まらせる。
「あー……それは……太陽の熱を遮断してくれる効果もあるから、熱射病にもならないし……あと……サチコの服装は……その……色々目立つから、頭から足までちゃんと被っていてくれ…………行くぞ」
「え、うわ!」
反論を言わせない内に。という感じで、ヨウは馬の腹を蹴り、馬は歩き出した。