4 悲しくも楽しい夜として。
「そうなんですか……」
ハンカチ洗って返しますね。と言いながら、どうしようか悩む佐知子。
(一応、二十歳までお酒とタバコはやめといた方がいいよなぁ……違法薬物はもってのほかとして、でも、お酒……)
佐知子は悩む。
実は元の世界にいる時、父の晩酌に時々付き合って飲んではいた。
(お酒……飲んでもいいかなぁ……ハメ外さなければ……いや! やめよう!! そこはハーシムさんに何か言われそうだし!)
ハーシムの顔を思い出し、佐知子は踏みとどまった。
後で何を言われるか分からない。
品行方正に……と、メリルに伝える。
「すみません、やっぱり私、お酒は……明日、引越しですし……ジュースか何かもらえますか?」
するとライラが、
「もー! ノリ悪ーい!」
と、勢いよく濁ったお酒、クーラを飲み干す。
「…………」
あんなアルコールきつくて、消しゴムのような味の物を……と、佐知子は絶句した顔で見ていた。
「分かったわ。私もクーラは少し苦手なの。ビール貰うからサチは何かジュースね。すみませーん!」
この店はキッチンにいる中年の旦那さんと、ホールにいる奥さん、そしてその息子らしき若い青年の三人で店を動かしているようで、メリルは青年に声をかけた。
ごめんなさい。と言いながら、佐知子はメリルが注文している間、辺りを見渡す。
皆、楽しそうに、オレンジ色の少し薄暗い明かりの中、飲み、食べ、喋っていた。
サリーマはキッチンの旦那さんと話している。
(この皆の顔見るのも……わいわいご飯食べるのも……今日で最後なんだな……)
佐知子は少し悲しくなる。
けれど、それは自分で決めた、この村から、世界から、戦争をなくすための第一歩を踏み出すため。
佐知子は少し下げていた顔を上げる。
「はい、サチ、ザクロジュースでいい?」
メリルがジュースをくれた。
「ありがとうございます」
佐知子は笑顔で受け取る。
楽しもう。今日のこの夜を。
そして楽しい思い出として、記憶にしっかり刻もう。
佐知子はそう思った。




