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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第三章

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1 みんなの優しさ。

 ハーシムに課題を出され、仕事の変更と引っ越しを告げられた後、使用人小屋に戻った佐知子は、いつライラや皆にその事を話そうかと自分のスペースに座っていた。


(ここで暮らすのも……もうすぐで終わりなんだなぁ……)


 佐知子はしみじみと小屋を見渡す。


「何、きょろきょろしてんの?」


 すると寝転がりながらドライフルーツを食べていたライラが話しかけて来た。


「え、あー……えーっと……」


 話すかどうか佐知子が言葉を濁していると、


「失礼いたします」


 凛とした女性の声が入口の方で響いた。


 使用人小屋の皆が入口を見ると、布をめくり真っ白な綺麗なカンラを着た、くるくるとした黒いパーマの髪を、白い布でハーシムのようにまとめたアフリカ系の女性が入って来た。


「タカハシサチコ様はいらっしゃいますでしょうか」


 その言葉に慌てて佐知子は立ち上がり、返事をする。


「はい! 私です!」


 そして駆け寄った。


「国事部の者です。ハーシム長官からの仕事の変更と引っ越しの日程についてお知らせに参りました」


 女性は佐知子をちらと見ると、持っていたパピスに目を戻し淡々と話す。


「はい……」


 みんなの前で言われちゃった……と、佐知子は思いながら話を聞く。


「仕事の変更はご存じかと思いますが、難民課受付の補佐への移動です。詳細はこちらに。引っ越しは役人宿舎の二人部屋に明後日に引越しとなります。お支度をお願い致します」


 その言葉に佐知子はぎょっとする。


「え! 明後日ですか!?」


 思わず声に出してしまう。


「……はい。何か問題がおありでしたら、ハーシム長官にお話致しますが」


 女性は佐知子を少し見て一拍置いたあと淡々と告げる。


「あ……いえ……大丈夫です……多分」


 口元を押さえて佐知子は言葉を返す。


「では、明後日の午前十時に私が迎えにきますので、お支度をしてお待ちになっていて下さい。何かご質問はおありでしょうか」


 毎度のその言葉に、佐知子もいつもの言葉を返す。


「……いえ、特にありません……」


 それを聞くとその女性は佐知子にパピスを渡し、


「それでは、私はこれで失礼致します」


 と、去って行った。


(引っ越し明後日かー……急だなぁー……荷物も大分増えたから急いで支度しないと……あ、このパピスの文章、結構読める!)


 などと、佐知子が呑気に思っていると、


「サチ!! 引っ越しってどういうこと!? 難民課で働くって!! いつの間に書記試験受けたの!? しかも明後日、引っ越しって!!」


 大声で佐知子に話しかけながらライラが駆け寄ってきた。


「あ……」


 そうだ。と、佐知子は気づく。

 今、ここで話をしていたから、ここにいた皆には聞こえて、知られてしまったんだ。自分で切り出すより都合は良かったが……と、思い、佐知子は切り出す。


「うん……そうなの……仕事変えることになって……あ、書記試験は受けてないよ。でも……ちょっと、特例で……訳ありで……役場の難民課で受付のお手伝いさせてもらう事になったの。だから役人宿舎に引っ越すことになって……」


 ははは。と、苦笑しながら佐知子は話す。

 そして、入口付近から、使用人小屋全体を見渡して、その場にいる全員に伝える。


「聞こえていたと思いますが、引っ越すことになりました。長い様な短い間でしたが、ここでの生活は楽しかったです。皆さん、親切にして下さって本当にありがとうございました!」


 そしてお辞儀をした。

 小屋の中が、しんっ……と静まり返る。


「サチ……」


 ライラがぽつりと呟いた。


「イヤだよ! 行かないでよ!! 役人なんて冷たい奴らばっかりなんだからね!! ずっとここにいなよ!!」


 涙目で叫ぶように佐知子に伝え、ぎゅっと佐知子に抱きつく。

 佐知子は少し驚く。

 そんなにライラに慕われていたのかと。


「ライラ……ありがとう……でも…………行かなくちゃいけないんだ」


 ぎゅっと抱き返しながら、佐知子は強い決意を込めた声で言った。


「サチ……」


 ライラが佐知子から離れる。

 その瞳は涙で一杯だった。

 するとメリルが静かに側にやって来た。


「事情は分からないけれど……行かなきゃいけないのね……」


 メリルも悲しそうな表情をしている。

 しかし、薄っすらと微笑んでいた。


「……はい」


 すまなそうに佐知子は返す。


「じゃあ! 明日の夜は皆で送別会ね! スークで一番おいしいお店貸し切りましょう!」


 後ろを振り返り、メリルは手を合わせ大声で皆に言う。

 皆は、そうだね! や、ぱーっと送り出してあげようか! などと明るい声を出す。

 佐知子はそんな光景にぐっと涙があふれてくる、そして思った。


 忘れない、この光景を。

 みんなの優しさを……。

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