32 決意の表情。
「よかったねー! サッちゃん!」
駆け寄って来たセロに、はい! と返事をする佐知子。他の皆が部屋を出て行く中、セロとヨウと三人で、しばし話す。
「よかったな……」
ヨウは穏やかにほほえんでいた。
「うん……ありがとう」
佐知子もほほえみ返した。
「でもハーシムさん、いじわるだよねー。課題とかさー、役人宿舎に引っ越しとか……」
「あー……」
セロとヨウまでもが、複雑な表情をする。
「え……課題とか役人宿舎とか……そんなに大変なんですか?」
眉間に皺を寄せて佐知子が問うと、
「んー、まぁ、仕事は多分大丈夫だとは思うけど……役人宿舎がねー……俺はもう二度と住みたくない、あそこ。俺、すぐ出たし」
苦い顔をする、セロ。
「俺は軍人だから住んだことはないが……まぁ……苦手な雰囲気ではあるな……」
ヨウはそう答えた。
「え……何それ……かなり不安なんですけど……」
佐知子は表情を歪ませる。
「まぁ、合う人には合うよ? ただ、俺みたいな人は無理っていうかー……無理な人は無理な場所だよね?」
セロがヨウに向けていう。
「ああ……ちょっとな」
と、ヨウも答えた。
「ええ……」
佐知子は先ほどのハーシムの言葉を思い出す。
『お前は何も知らなさすぎる。知識も経験も。だから課題を出す』
その言葉を思い出し、ぎゅっと唇を引き結び、手のひらを握った。
「でも……きっとそれも通らなくちゃいけない課題なんだよね! 何も知らない私の……」
何かを決意した顔で、佐知子は二人を見た。
二人は少し驚いた顔をしたあと、ふっとほほえんだのだった。




