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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第二章

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31 課題。

 次の日の同じ時刻、会議室にはハーシム以外の同じ面子が集まっていた。


 そして泣きそうになるほどの緊張を堪えるため、ぎゅっと両膝の上でカンラを握り、肩と背中に力を入れて、佐知子は少しうつむき加減に座ってハーシムを待っていた。

 すると、ガチャリと扉が開いた。


「すまない、遅れたな」


 ハーシムの声がして、佐知子は瞬時にビクリと肩を上げ、力を入れつつも反射的に顔を上げた。


 ハーシムはツカツカとただ正面を見て席へと向かって行く。

 後ろにはタカヤも一緒だった。そして席につくと、


「すまない、前の用事で遅れた。早速、昨日の話をしよう。時間がない」


 ハーシムは皆を見て言う。


「昨夜、黄と話した。結論を言う。娘、お前には利用価値がある。だからこの村の外交官にしてもいいだろう」


 その言葉に、佐知子とヨウが驚いたような、ハッとしたような表情をして顔を合わせた。


「しかし、お前はあまりにも何も知らなすぎる。それは知識も礼儀作法ももちろんだが経験としてもだ。だからお前に課題を出す」


 瞳を閉じ。ハーシムはうつむき加減に言った。


「え?」


 カンラを握っていた手を緩めていた佐知子はきょとんとする。


「これから三ヶ月、難民課で働いてもらう。それも特例なのだが……仕方がない。それ故に困ることもあるだろう。それもいい経験になるはずだ」


 瞳を開き、ハーシムは顔を上げた。


「どうだ、やるか?」


 佐知子の答えはひとつだった。


「はい! やります! やらせてください!」


 しかし、ふと疑問がわいた。


「あ、あの……そしたら炊事係の仕事は……」


 ハーシムは真っ直ぐ佐知子の目を見つめる。

 金色の瞳が覚悟を決めろと言ってきたのがわかった。


「軍用地の炊事係の仕事はもちろん辞めてもらう。役場の難民課の仕事に移るんだからな。もちろん住む場所も引っ越してもらう。使用人小屋から、役人宿舎にな」


 ハーシムがそう言った途端、


「うわっ! あそこに!?」


 と、セロが叫んだ。

 え? と、佐知子が思っていると、


「一応、役人の仕事をするんだ、役人宿舎に入るのは当然だろう」


 ハーシムはセロを見る。


「えー、でもあそこさー……」

「セロ、余計なことを言うな」


 眉間に皺を寄せ、セロにぴしゃりとハーシムは言う。


 いじわるだなぁ、ハーシムさんは。と、つぶやきながらもセロは黙った。


 佐知子には何の事か分からないが、とりあえず仕事が変わり住む場所も引っ越すことになることを理解する。


(そっか……引っ越すんだ……仕事も……皆ともお別れか……)


 ライラやアイシャ……他の皆の事を佐知子は脳裏に浮かべる。


「なんだ、炊事係の使用人でいたいか?」


 佐知子の心情を察したように、ハーシムが、ふんっと言い放つ。


「あ! いえ! 大丈夫です! 役人宿舎に引っ越します!」


 手を振りながら佐知子が慌てると、


「貴様は思ってることが顔に出やすい、それも直せ。不利になる」


 そう言い終わる、持って来た書類をトンと、ハーシムはテーブルの上で整え、


「この話は以上になるが、誰か異論のあるものはいるか?」


 と、みんなに問う。


「ないよー。課題なんていじわるだなーって思うけど」

「セロ……ありがとう、ハーシムさん」

「ないよ。がんばんな、サチコ」

「……ありません」

「よかったなぁ、嬢ちゃん」


 皆にそう言われ、サチコはお辞儀をしながらありがとうございます! と感謝の言葉を述べた。


「では以上だ、失礼する。娘の所には追って使いを出す。待っていろ」


 椅子から立ち上がると、ハーシムは颯爽と去っていく。


「はい! ありがとうございました!」


 返事をしながら佐知子も立ち上がり、横を通り過ぎていくハーシムにお辞儀をする。

 パタンと扉の閉まる音がすると、ほっと息をはいて肩の力を抜いて頭を上げた。

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