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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第二章

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28 初めての交渉。

「私は、この世界に来て、初めて戦というものを経験しました……私のいた国では、もう何十年も戦はありませんでした。そしてこの戦で身近な人を亡くしました。そして悲しむご家族も見ました」


 会議室はしんっと静まり、佐知子の声だけが響いていた。


「私はこの世界の創造神に、これから起こる大戦争を回避しろと言われてこの世界に来ました。最初は……そんなこと出来ないだろうし、やるつもりもありませんでした。でも……戦を経験して、私は戦を、戦争をなくしたいと思いました! それでギドに行ったら……」


 佐知子は少し言うのを躊躇う。


「神様が……創造神が、戦争をなくすためには外交が大切だと教えてくれました。だから!」


 もうこの時点で涙があふれ出そうだった。

 皆に見られている中話す極度の緊張と、初めての交渉……とは、まだその時の佐知子には分からなかったが、恐れる相手との交渉。


 でも、話すしかない。


 佐知子はそう思って必死に伝えていた。

 あの時の誓いを……もうアフマドのような犠牲や、ヨウのように人を殺したくないのに殺さなくてはならない人を失くすために。


「私を! この村の外交官にしてください! 色んな言葉を使えるのは利点だと思うんです! なんでもします! 勉強も! 礼儀作法も! 何でも勉強してがんばります! だから! 私を外交官にしてください! お願いします!!」


 佐知子は勢いよく頭を下げた。

 勢い余って、ゴン! という音と共にテーブルに額を打ちつけた。


 いたっと小さく声に出し少し頭を上げたが、そのまま下げ続ける佐知子。


 ぎゅっと目を瞑る。

 返事が怖い。

 涙があふれてくる。

 泣いちゃだめだ。


 と佐知子は思うも涙があふれてきた。

 ぽたりと瞑った目頭から大理石へと涙が落ちる。


「……お前みたいな書記試験も受けていないただの小娘をこの村の外交官なんぞにさせられるわけないだろう」


 返って来たのは、非情な言葉だった。


 佐知子は頭を下げたまま、瞳を開く。

 そのまま顔を歪ませて、泣きそうになった。

 思い切って、勇気をふり絞って言ったのに……と。


 しかし、


「えー! 外交官にしてあげようよ! 流暢なその国の言葉が使えるって外交官として利点じゃない? そりゃ今のサッちゃんには足りないこともたくさんあるけど、それは勉強して身につければいいじゃん! 才能を村のために活かさないのは罪だよ、ハーシムさん」


 その言葉に、ハーシムはむっとする。

 佐知子はそっと顔を上げた。


「ハーシムさん……俺からも頼む。未熟な所はハーシムさんが厳しく指導してくれればいい。だから……頼む」


 ヨウは座ったままで頭を下げた。

 そんなヨウに佐知子の顔が歪む。


「…………」


 ヨウにまで頭を下げられ、ハーシムは深い溜息をつく。


「いーんじゃねーのー? このままどっかの部屋に隠したって、噂は広がり、アーマ宿舎に来なくなった神の子はどこだ! って、暴動にでもなりかねないぜ。今から何か問題が起こると思ってるんだろうけど、そう思うんなら、隠すより表に出して利用した方が賢いだろ」


 黄が後頭部で腕を組む。


「っ! お前まで!」


 ハーシムがガタンと立ち上がった。


「まぁまぁ、嬢ちゃんの希望は聞いたし、この話はとりあえず保留ってことで。今晩、俺とこいつで話し合うから、結果はまた明日この時間にな。ほい! 解散解散!」


 ぱんぱん! と、黄が手を叩く。

 すると一目散にハーシムが部屋から出て行った。

 タカヤがハーシム様! といいながら後を追う。佐知子はすれ違いざまに睨まれた。


「…………」


 椅子に座った佐知子がほろほろと涙を流していると、


「サッ……!」


 駆け寄ろうとしたヨウの寸前で、


「はい……」


 と、出て行こうとしたトトが、薄いブルーの綿のハンカチを佐知子にそっと渡した。


「あ、ありがとうございます……」


 少し驚きながら佐知子はそれを受取り、それでそっと涙をふく。


 トトはそのまま出て行ったが、足を止めたヨウは、そこに違和感を感じていた。

 しかし涙を拭う佐知子を見てはっとし、


「サチコ! 大丈夫か!? よくやったな……」


 しゃがんで椅子に座る佐知子に優しくほほえみかける。


「うん…………うん……がんばった……怖かった……けど、ちゃんと言ったよ……怒らせちゃったけど……」


 貸してもらったハンカチで佐知子は次々あふれ出る涙を拭う。


「だーいじょぶだよ。黄さんがああ言ってるから、多分、上手く行くんじゃない? ハーシムさんは黄さんには勝てない所あるからねー」


 そこにセロも合流した。


「ありがとう……ございます……」


 二人の……皆の優しさが身に染みて、佐知子の涙は余計あふれるのだった……。

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