23 元の世界の事。
和やかに中央の絨毯でアーマの女性同士の通訳や、佐知子への質問などを受けたりして時間は過ぎていった……。
すると、正午の鐘が鳴る。
「あ! もうこんな時間! お昼ですね、じゃあ今回はこの辺で。長々とすみませんでした、ありがとうございました」
絨毯に集まってくれた女性達に佐知子は頭を下げる。
「えー! 帰っちゃうの?」
アーマの一人、アラブ系の女性が残念そうに言う。
「まだいいんじゃない? お昼一緒に食べましょうよ」
極東アジア系の女性がそう提案した。
しかし、
「余分な分はないだろう。この子にはこの子の生活があるんだ。おかえりよ。それでもしよかったら……また来ておくれ」
ノーラと同室の初老の女性が静かにつぶやいた。
「はい!」
佐知子は満面の笑みで微笑む。
「ノーラさん……今日はノーラさんの様子聞きに来たのに、ちゃんと話せなくてすみませんでした……今度はちゃんと二人でお話ししましょうね」
マグカップは私が洗っておくわ。と、言われ渡す際に、佐知子は申し訳なさそうにノーラに伝えた
「……いいのよ、気にしないで。みんな楽しそうだったから。あなたはあなたの役目を果たして」
ノーラはマグカップを受け取り、佐知子を見つめながら何かを想い、伝える。
「役目?」
佐知子は疑問符を浮かべ聞き返した。
「さ、お昼よ! 食べ損なっちゃうわ! 早く自分の小屋に帰りなさい!」
ノーラは佐知子の背を押しながら階段へと向かわせる。気をつけるのよ! と、階段を降りる佐知子に母親らしい温かい笑顔を向けた。
「…………」
一瞬、元の世界の母親の事を思い出した。
(……お母さん……心配してるかな……)
使用人小屋へと戻る道すがら母親のことを考える。
それを皮切りに、佐知子は元の世界のことを次から次へと思い出してきた。
こちらの世界に来てから、約二ヶ月以上は経っている……。
私の扱いはどうなっているんだろう……突然の行方不明……扱いかなと、佐知子は思いながらゆっくりと俯いて歩みを進める。
この世界に来て帰りたいと思ったことはなかったし、いつ帰されるのかという不安は何度もあった。
けれど、元の世界の事や、家族や友人の事を考える事はほぼなかった。
しかし先程のノーラを見て、急に母の事を思い出す。
元の世界の事を思い出す。
(皆、心配してるかな……行方不明で……泣いてるかな……お母さん……)
佐知子は初めてこの世界に来て、向こうの世界を思い泣きそうになった。




