22 お茶会。
参加しない者もいたがほとんどの女性が集まり、中央の粗末な絨毯に座る。
佐知子は階段から見て一番奥の上座に座らされた。
「…………」
人種はアスワド村らしく見事にバラバラで、アフリカ系、白人、アジア系、アラブ系の女性など様々で、子供を抱えている人、少し大きな子供を連れている人もいた。
(緊張するな……)
と、佐知子は思う。
「えっと……何から話しましょうか……」
佐知子がそう切り出すと声が上がった。
「まずはあんたの自己紹介してよ!」
その言葉にほっとして自己紹介をしようとした佐知子だが、はたして今の女性の言葉を他の人たちは理解しているのだろうか……と、思い、聞いてみることにした。
「あの……今こちらの女性が話された言葉、皆さんわかりました……か?」
すると、
「いいえ」
「わからなかった」
「わからないわ」
という返事が案の定返ってきた。
これは厄介だな……と、佐知子は内心思いながら、全部通訳しながら自分が答0えなきゃだな。と、思い喋り始める。
「えっと今、自己紹介してと言われました。なので私の自己紹介から始めますね。私はサチコといいます。えっと……凄く遠い地からアスワド村に来ました。今は軍用地の炊事係をして、使用人小屋で生活しています。年は十七です。自分でも気づかなかったんですが……多分、この世界の創造神からどんな言葉も聞いてわかるし、話せる力を与えられてました。でも他はごく普通のじょしこ……女です」
女子高校生と言いそうになって慌てて言葉を止めた。
まだこの言葉を使ってしまうのか……と、佐知子は頭の片隅で思った。
「凄く遠い地ってどこ? ホン人の系統ぽいけど……」
一人の女性がそう声を上げる。
「あ~……」
その言葉に佐知子は返事に困る。
「今、凄く遠い地ってどこ? ホン人の系統ぽいけど。っという質問を貰いました。ホン人の系統ではないし、凄く凄く遠い所の出身なんですけど……どこから来たかは……ちょっとお話できなくて……すみません……」
佐知子は苦笑いしながら少し頭を下げる。
「えー、何々!? 天から降りてきたのー!? 本当に神の子か神の使いー!?」
アフリカ系の女性は笑う。
「今、天から降りてきたか、本当に神の子か神の使いかと言って笑われてます……」
佐知子は何とも言えない表情で通訳する。
すると皆も一斉にクスクスと笑いだした。
「いや! でも、私そんな気がしてきた! あなた神の使いじゃない!? どうなの!? だってそんな神しか持てないような力を持って……私はデアトール様を信じてるわ!! あなたはデアトール様の使いよ!!」
いきなり胸から下げた、木の枝で出来た三角形の物を握った若い白人の女性が立ち上がり、瞳を輝かせながら佐知子を見て半ば叫びながら立ち上がった。
「え…………」
その言動に佐知子は驚きながら言葉を失くす。
(え……デアトール様って何……? え……あ……この人、何かの宗教の人なのかな? えっと……通訳していいのかな……)
佐知子が戸惑っているとこの人は常日頃、何かしているのだろう、皆、辟易した表情と仕草で両手を広げたりげんなりした顔をしていた。
「あー……えっと、立ち上がった女性が……私のこと、神の使いじゃないかと……神しか持てようのない力を持ってるからと……私はデアトール様? を信じてると……あなたはデアトール様の使いよと言っています……すみません、デアトール様って私、知らないんですが……」
そう言い終わると、
「デアトールっていうのはね、フラーウム王国の国教のデアートル教の神よ。この世界の創造神なんだけどアズラク帝国も同じ創造神崇めてるんだけど名前が違うし、なんか聖典? とか色々違うのよ。あたしは宗教には興味ないんだけど、この子、熱心な教徒さんでね」
近くにいた女性が両手を広げながら小さめな声で佐知子に教えてくれた。
「あ……ああ、そうなんですか……」
ありがとうございます。と、頭を下げながら、フラーウム王国って確かセロさんがいた国だよな……と、佐知子は思い出していた。
「あなたデアートル教を知らないの!? なんてこと!! 私が教えてあげるわ! 一緒に神の導きを……」
興奮気味にその女性が佐知子の方へ向かおうとしたところで、
「はいはい、座んなさい!」
と、両側の女性に無理矢理座らされ、言葉が通じてるのかどうか分からないが両脇の女性が興奮した熱心な教徒の女性を宥めている。
「…………」
佐知子はどうしていいかわからずその光景をしばし見ていると、
「さ、自己紹介もすんだし、何、話しましょうか」
ノーラがそう話を切り替えてくれた。
あ、と佐知子はノーラを見てほっとする。ノーラはにこやかにほほえんでいた。
「えっと、自己紹介もすんだし、何話しましょうかって言ってくださってます」
「そうだねー、私達は自分達の故郷の言葉で延々話したいんだけど……まぁ、今、聞いてるんだけど……」
「私、あなたと故郷の言葉で話したい!」
出てきた希望は、一体一の会話だった。
「……えーっと」
その言葉にどうしよう……と、佐知子は思う。が、
「あ、そうだ! あたし、この人のこと名前しか知らないんだけど、多分、言葉的に出身地近いはずだと思うのよ。ねぇ、サチコさん? この人に出身地どこか聞いてくれない?」
その言葉にほっとして、佐知子は通訳をする。
「えっと、今、話した女性から、隣の女性のことを名前しかしらないけれど、言葉的に出身地が近いはずだから聞いてくれと言われました、えっと、隣の方、出身地はどこでしょうか?」
「私? 私はアズラク帝国の北のムイシャってとこ! そうなのよね、前から私も思ってたの。近いわよね? 言葉といい、訛りといい……」
アズラクとムイシャという単語を聞いて、佐知子に頼んだ女性が反応した。
「ねぇ! 今、サバーさんなんて言ったの!?」
「えっと……出身がアズラク帝国北のムイシャという場所らしいんですが、サバ―さん……も近いと前から思っていたと……」
と、佐知子が通訳すると、
「わー! ムイシャ! 懐かしい!! 子供の頃、一度だけ遊びに行ったことあるのよ! 近いわ!!」
女性は言葉は通じないが、サバ―という名の、隣の女性の手を握って嬉しそうに興奮して早口に捲し立てる。
「サチコさん!! 何て!? 何となくわかるけど何て言ってるの!!」
サバ―も嬉しそうに早口で佐知子に問う。
「子供の頃、ムイシャに一度だけ遊びに行ったことがあって、近い、懐かしいと!」
「やっぱり! 何となくあなたの言葉わかるのよ! やっぱり近くだったのね!」
二人は手を握りあい喜びを分かち合っていた。
「あの……すみません、私も同じ部屋の人に聞きたいことがあって……」
と、今度は眼鏡をかけた白人の三つ編みの女性が手を挙げて小さな声を上げた。
「あ、はい!」
佐知子はそれに答えた。




