20 受け入れられた嬉しさ。
「はい……粗末なカップと味の薄いシャイだけど」
「いえ……すみません……ありがとうございます……」
ひとしきり泣いて落ち着いた後、ノーラに抱き抱えられながらノーラの部屋に行き、座らせてもらい温かいシャイを少し縁の欠けたマグカップで佐知子は貰った。
元気になったユースフが佐知子のシャイに手を伸ばす。
その手を、あちちだよ。と握り返した。子供の手は柔らかく温かい。ふっと佐知子は微笑む。ノーラがふふっと微笑みながら佐知子の隣に座った。
「あなた大きな声で話してたから、全部ここにも聞こえてたわよ」
え! と、反射的に佐知子は叫んでノーラを見た。
そして恐る恐る、前にいる初老の女性を見ると……
「……私は神なんか信じてないけど……まぁ、確かに事実は事実ね。不思議な事もあるものね……」
瞳を閉じたままで、静かに女性はそう言った。そして瞳をそっと薄っすらと開き、
「それに……故郷の言葉で誰かと話すのは……いいものね」
と、静かな声で、何かを懐かしむかの様に、どこか嬉しそうな瞳で続けた。
「…………」
ぽかんとする佐知子。
(これは……受け入れられた……の、かな?)
と、思っていると、
「ねぇ! あなた!! 私の故郷の言葉も話してるわよね! すごい! 懐かしいわ~! ホン国の近くだから話せる人なんて誰もいないから、最初驚いちゃった!」
もう一人のこの部屋の女性、自分でホン国の近くと名乗った三十代位の女性は、嬉々として身を乗り出して佐知子に話しかけてきた。
「あ、えっと……私は私の国の言葉で話してるんですが……」
少し体を引きながら佐知子が答えると、
「わー! 本当に故郷の言葉で普通に会話してる! 何年ぶりかしら!! うれしー!!」
その女性は嬉しそうに満面の笑みを佐知子に向ける。
「…………」
その笑顔に、佐知子はセロの言葉を思い出す。
『才能を生かさないのは罪だよ』
しかし頭を振り、今はその女性の相手をする。
「嬉しい……ですか……?」
おずおずと佐知子が問うと、
「うん!」
と、昨日怯えた表情をしていた女性は嬉しそうな笑顔で答える。
「そう……ですか……」
佐知子はほっとして、そしてその女性のその言葉が嬉しくて、その女性に笑顔を向ける。
「……何だか上手く行ったみたいね。何を話してるのかはサチコの言葉しか分からないけれど」
ノーラはユースフを抱えてあやしながら佐知子に微笑んだ。
「…………」
佐知子はノーラを見る。そして、
「はい! 頑張って良かったです!」
と、嬉しそうに笑った。




