1-2 十年。
(あれ……何かどこかで見たことあるような……)
そう思いながら佐知子は狭い建物から出ると、立ち上がりリュックを手に持ち、膝やスカートについた土を払う。
「っ……」
男は更に、何か信じられないものを見るかのように佐知子に向き直り、目を見開き口元に手を当てる。
(え、何だろう……)
男に凝視され戸惑う佐知子。
(えーっと……どうしようかな)
佐知子が困っていると、
「タカハシ……サチコ……様ですか?」
「へ?」
いきなり名前、しかもフルネームに様付けをされ、佐知子は驚いて考えて伏せていた顔を上げた。
男は佐知子の目は見ずに、何やら挙動不審に少し俯いて視線を泳がしている。
「あ……はい、高橋佐知子ですけど」
佐知子は距離はあるが、男の顔を見て素直にそう答える。
男はパッと佐知子を見る、しかし目が合うと急に顔を真っ赤にして伏せてしまった。
「?」
自分よりも頭二つ分は高い、おそらく身長は百八十センチメートルは越えているだろう、しかも顔もとても整っていると思われる褐色肌のその男……青年の挙動不審な様子に、佐知子は戸惑いを隠せない。
「あの……俺……私……ヨウ…………です……」
しかし、次に発せられた言葉に佐知子はキョトンとした。
「……は?」
「あの…………十年前に……貴女様に……助けていただいた……名前を、つけていただいた……ヨウ…………です」
「……え?」
佐知子は言葉の意味はわかっていても、理解が追いつかなかった。
「え……? ヨウ……くん? ヨウくん!?」
「……はい」
「え? えっ! だって!! あんな小さくて! え? 十年前? 十年!? あれから十年経ってるの! っ……経ってるんですか?」
ヨウと名乗る青年の言葉を理解し、驚いて近寄りながら捲し立てる佐知子。
「はい、貴女様がいなくなってから、十年が経ちました」
ヨウはやっと落ち着いたのか顔の赤味は大分引いたが、それでも佐知子と目を合わす事は出来ず、斜め下を向いて話している。
「えー……十年……神様め……」
やってくれたな。と、佐知子は思う。それからハッとしてヨウに問う。
「あ! あれから大丈夫だった!? 腕! 腕の傷!! あ、でも、今、生きてるなら大丈夫だったんだよね! よかったー!! 無事にお医者さんに見てもらったんだね! 無事でよかったよー!!」
よかったよかった! と、佐知子は肩を揺らしながら笑顔で喜ぶ。
「…………」
そんな嬉しそうに笑う佐知子を見て、ヨウは口元に手をやり、また顔を赤らめてしまう。
「? どうかした?」
「いえ……」
ヨウは空を見上げた。